米穀業者が集まった席で「未検査米でも精米に銘柄表示が出来るようになるって本当ですか?」と聞かれた。それを所轄する消費者庁の食品表示基準の改正案にそう書いてあるのだからそうなるとしか言いようがない。この米穀業者でなくてもあまりにも速いテンポでコメの商取引の中核部分で大きな変革が起きつつあり、ついていけない。その変化を譬えるなら小学生をいきなり大学の金融工学部に放り込んだようなもの。
その大きな変化を伝えるのに最もわかりやすいのは農水省が令和3年度の予算で新規要求した「AI画像解析等による次世代穀粒判別器の開発」。開発の背景と目的について(1)農産物規格・検査について規格項目の見直し、検査の高度化を行う事としている。現在の農産物検査は、精米原料となる玄米の被害の有無等を検査員の目視で確認されているが「地域や検査員のバラつきが発生すること」や「具体的な測定データを示せない」等の課題がある、(2)令和2年の秋から一部検査項目への穀粒判別器の活用が開始されることから、その画像データと測定数値、各用途での利用適性をビッグデータとしてデータベース化し、検査員による鑑定の相当部分を代替できる次世代穀粒判別器を開発する、(3)これによりAI画像解析により規格項目を数値で精密に示すことが可能になり、着色粒・胴割粒の含有量等を考慮した、等級のみではない実需者ニーズに応じたコメ取引が可能になるとしている。
生産現場の課題解決に資する研究内容としては、次世代穀粒判別器の開発メーカーと連携して(1)穀粒判別器から取得されるコメの画像・検査データの農業データ連携基盤(WAGRI)等への蓄積、(2)ビッグデータと連動する次世代穀粒判別器の開発、(3)AI画像診断によるデータに基づく取引を提案するプログラムの実装などを行う。
社会実装の進め方と期待される効果については(1)次世代穀粒判別器を用いた新たな検査項目体系を構築、(2)玄米外観品質の等級に加え、新たな指標による用途別のコメ取引が実現(3)民間機関が実施する農産物検査への活用を積極的に進めるとともに先進農業法人や都道府県普及組織等とも連携した普及活動を全国展開(4)検査等級のみによらない用途別のコメの取引が実現。海外日本食レストラン向けコメ輸出が1万トン増加としている。(アンダー線は筆者)
今のコメの検査制度やそれに基づくコメ取引の商習慣は何なのか? と思えるほどビックリするようなことばかり記されている。今や農水省は「穀物の画像取引の分野で世界最先端を行く」と高揚しているだから止めようがない。農水省はこの開発を実現するためにノウハウを持つ企業や研究機関によるコンソーシアムを作ると計画を立てている。その中の1社が穀粒判別器の画像解析技術を活用して「ブロックチェーンによるコメ取引システムをつくる」と言っている。
ブロックチェーンとは何なのかをネットから引っ張り出して記すと、ブロックチェーンは、ネットワークに接続した複数のコンピュータによりデータを共有することで、データの耐改ざん性・透明性を実現することで、単に送金システムであるにとどまらず、さまざまな経済活動のプラットフォームとなり得る。パブリック・ブロックチェーンとは、さまざまなデータのやり取りを複数のネットワーク上のコンピュータ同士を接続し、処理記録するデータベースの一種で、主に以下の特徴を備えている。
(1)取引データが暗号化されている
(2)合意された過去の取引データの集合体がチェーン上に記録されている
(3)データの改ざんが難しい仕組みを持つ
(4)中央管理者がおらず、分散的に運用されている
(5)ネットワーク上の複数のコンピュータが取引データを確認・合意するために送受信する
(6)システムダウンが起こりにくい
こうした特徴があることから仮想通貨の売買が出来るようになったのだが、仮想通貨とコメとは全く別物で、ブロックチェーンでコメの取引が出来るとは思えない。ところがコメを画像解析することでデータ化が可能になり、しかもそのデータは解析度が格段にアップしたことから一つとして同じものはない。つまりデータ化されたコメのサンプルは指紋と同じ役割を果たすわけで改ざんが出来ない。仮想通貨も改ざんが出来ないことによってブロックチェーンによる取引が可能になった。
カルトンにコメのサンプルを入れ、目視で確認しながら売ったり買ったりしていた時代が懐かしいと振り返る日が近づいている。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
November 02, 2020 at 11:32PM
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ブロックチェーンによるコメ取引システムを作るというIT企業【熊野孝文・米マーケット情報】 - 農業協同組合新聞
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