生きもの好〝紀〟心
皆さんは、博物館や学芸員がどのような使命を持ち、日々仕事をしているかご存じですか? まず、自然史系博物館の役割として①資料の収集・保管・管理②資料に基づく調査・研究③その成果を用いた教育・普及が挙げられます。ここでいう自然史資料とは標本や分布情報、写真などのことを指します。これらの役割は密接に関わり合っており、どれか1つが欠けても博物館としての機能を損なってしまうため、われわれ学芸員は3つのバランスをうまくとりながら業務を進めています。それらの中心で、博物館の核とも言えるものが「標本」です。
博物館が標本を半永久的に保管することで新たな知見の証拠資料を提供し、これまで明らかになった事実の再検証が初めて可能となります。今回は、博物館の根幹を担う標本の意義と活用について、和歌山県立自然博物館の魚類標本を例に挙げて紹介しようと思います。
昭和57年の開館から39年を経て、当館に収蔵されている魚類の「液浸(えきしん)標本」の数は約5万点に上ります。標本にもいろいろあり、魚類はアルコールやホルマリンの水溶液に浸けて保存します。「博物館に収蔵されているのだから、きっと珍しいものばかりだろう」と思われるかもしれませんが、実はほとんどがたくさんいる種、いわゆる普通種なのです。
自然博物館の標本コレクションは、一般の方が集めているものとは目的が異なっており、珍しいものを集めるより「生物相」を網羅すること、つまりある地域の生物の全種類を集めることが第一の目的。当館では、主に和歌山県内を中心に紀伊半島や周辺地域の標本を集めています。どの地域にどれくらいの生物がいるか、あるいはどのような生物がいるかという疑問は誰もが持つと思いますが、調べることは簡単なことではありません。
時間とお金、そして人手をかけて調査を行い、なるべく漏れのないようにリストを作成していきます。しかし、目で見て調べるだけでは種類や個体数を間違えたり、後々再確認ができなかったりと問題が生じます。生き物の場合、これまで1種と思われていた中に実は複数種が含まれていて後に分けられたり、反対に別種と思われていたものが実は同じ種であったりと、分類が変わってしまうことも往々にしてあるのです。かつて1種だとされていたメダカが「ミナミメダカ」と「キタノメダカ」に分けられたことが分かりやすい例かと思います。そこで、見つけた生物の標本と採集場所や日時などの情報をセットで登録・保管することにより、その情報が正しいか否かを後世で検証できるようになります。
つまり、例え時代によって種名が変わっていても標本さえ残っていれば、どの種類か調べ直すことができるのです。従って、博物館に収蔵されている標本コレクションは、半永久的に科学的な検討や解析に利用可能な、信頼できるデータベースといえます。
(和歌山県立自然博物館学芸員 国島大河)
December 06, 2021 at 06:43PM
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【生きもの好〝紀〟心】博物館ではなぜ「標本」を作るの?㊤ - 産経ニュース
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