空知の真ん中あたりに位置する、歌志内市。 総務省が発表した資料によると、ことし1月時点で、全国で最も人口が少ない市です。 人口は減り続け、ことし11月末時点の人口は、2931人。 3000人を下回っています。 産業の創出が課題となる中、ことしから、ワイン用ブドウの本格栽培に乗り出した男性がいます。小さな市で始まった、新たな挑戦を追いました。
今年スタート!本格栽培
ことし10月、歌志内市の山あいにあるブドウ畑を訪ねました。
ブドウの収穫のため、歩みを進める1人の男性。遠藤真人さん(44)です。
遠藤さんは、5年間、市の地域おこし協力隊などとして、ブドウの試験栽培に携わってきました。そして、ことしからワインの商品化に向けた本格栽培を始めました。
遠藤真人さん
「試験栽培を経て樹齢も重なってきたので、ようやく、まとまった量がとれるようになりました。ここが、スタートラインかなと思っています」
遠藤さんは、8年間、東京や京都のレストランで、ワインを提供する仕事を続けてきました。
日々ワインを客に提供する中で、「自分で一からワインを作ってみたい」という思いがわいてきたといいます。そして、まずは原料となるブドウ作りを究めるため、全国のブドウ畑を見て回る中で、歌志内市でブドウの試験栽培を担う協力隊を募集していることを知り、この地に移り住みました。
遠藤真人さん
「ワイン造りというのは、最終的にはブドウ作りという側面が強いので、ここに来ました。
自分はスパークリングワインが好きなのですが、ここでできるブドウはスパークリングワインにも向いていると思っています。
ここで育ったということが頭に浮かぶような果実味が少しでも醸し出せたらいいなと思っています」
歌志内市のブドウにかける思い
実は、このブドウ作り、遠藤さんの望みをかなえるだけでなく、歌志内市にとっても現状の打開を狙った大切な事業なのです。
歌志内市は、かつて炭鉱が栄え、昭和23年には、人口はピークの4万6000人あまりに達しました。しかし、炭鉱の閉山とともに人口は減少。そうした中、平成3年に炭鉱会社が離職者の雇用対策のため、ブドウ畑を開きました。その後、市が事業を引き継ぎ、一時は民間企業に譲渡するなどして栽培を続けてきましたが、エゾシカによる食害などから、事業は軌道に乗りませんでした。
歌志内市はこの5年で見ても、人口は600人減り、会社や個人が始めた事業はわずかに4件。都市部とのアクセスの悪さから、企業誘致も思うように進みません。
さらに、山あいに町が広がっているため、広くて平らな土地が必要な農業も栄えず、産業が育たないことが課題となっています。
そうした中、市は耕作放棄地となっていた山あいのブドウ園を再び復活させようと、地域おこし協力隊の遠藤さんに5年前に託したのです。
遠藤真人さん
「ゼロから、マイナスからのスタートだという気持ちで、まずは自分がしっかりと健全なブドウをこの畑で作り続けられるように、いろいろと工夫していきたい」
遠藤さんは、試験栽培を始めるにあたり、枯れてしまっていたブドウの木をすべて引き抜き、堆肥をすき込むなど、土壌を改良して少しずつ整備しました。さらに、エゾシカ対策の防護柵も設置されるなど、準備を進めてきました。体力的にきつい作業の連続でしたが、遠藤さんは、「ブドウのためになるなら」と、苦労は感じなかったといいます。
そして、いよいよ始まった本格栽培に、歌志内市の柴田一孔市長も期待を寄せています。
柴田一孔市長
「雇用の場としてはもちろんですが、観光などの資源にもなると考えています。全道、全国、世界に発信していけるよう、市も全面的に支援をしていきたいと考えています」
頼りは先輩農家
市の期待も背負って本格栽培をスタートさせた遠藤さん。
頼りにしているのが、空知地方の先輩農家たちです。
空知地方では、気候条件を利用し、空いた土地でブドウの栽培を始める農家が
増えているのです。
自分の畑の収穫作業の合間を縫って訪れたのは、三笠市のブドウ畑。
ブドウの収穫を手伝いながら、先輩農家の近藤良介さんにブドウの実の選別基準について、アドバイスをもらいました。
実は近藤さん、過去に歌志内でブドウ栽培に携わっていたことがあり、遠藤さんの新たな挑戦を誰よりも期待して見守っているのです。
近藤良介さん
「自分が歌志内では成し遂げられなかった挑戦を遠藤さんは継続してやってくれています。ブドウの木を植えるのを手伝いにも行きましたが、泣きそうになるくらい感慨深かった。空知地方は、雪や寒さなど、厳しい条件もあります。乗り越えるためには経験でしか見えないところもあると思うので、私たちが遠藤さんに伝えていきたいと思います」
2年後にもワインが完成
10月下旬。遠藤さんはこの秋収穫したブドウを、岩見沢市の醸造所に持ち込みました。
ブドウのよい香りが立ちこめる中、畑や醸造所の仲間たちと、ブドウの実を取る作業を行います。
醸造家のブルース・ガットラヴさんも遠藤さんのブドウを味見し、「とても甘くてできあがるのが楽しみだ」と太鼓判を押しています。
ブルース・ガットラヴさん
「ブドウは豊かな味わいで、おいしいワインができると思います。
遠藤さんには、作りたいワインのビジョンを一生懸命追いかけてもらいたい。そうすれば間違いなく満足のいくワインが作れると思います。
とても期待しています。私も全力で応援していきたいです」
ことし収穫できたブドウは、1トンあまり。順調にいけば、およそ800本のワインができあがります。
ワインが完成するのは早ければ令和5年の春。再び歌志内市に活気を呼び起こすきっかけになるのか。地域の期待も背負った、「希望のブドウ」がゆっくりと熟成されていきます。
遠藤真人さん
「ことしは気象条件が厳しい時期もありましたが、自分が目指すワインの熟度、クオリティーにたどり着いたと思います。歌志内の畑の環境は、北海道の中でも特徴的なので、そういった冷涼感や風土がワインの中に閉じ込められたらうれしいです。
私のブドウ畑は多くの人のサポートでできあがったので、支えてくれる人たちに恩返しの気持ちを持ってブドウ作りを行い、ゆくゆくは自前の醸造所を畑の近くに建設して、地域に根ざしたワインを作りたいなと思っています」
<取材後記>
私がブドウの収穫の取材のため、遠藤さんの畑を訪れたとき、遠藤さんの知人やその子どもたちが、ブドウの収穫作業を手伝っていました。よく晴れた秋晴れの空に子どもたちの歓声が響き渡っていたのが印象的で、すでに人々が集まる場所になっていました。空知地方では、「ワインタクシー」というワイナリーをめぐるツアーや、「ワインピクニック」というワインの生産者と交流しながら地元のワインを楽しむイベントなども開かれています。ワイン造りは観光事業の1つとしても、注目が集まっているのです。
遠藤さんの事業が今後ますます広がり、「歌志内ワイン」が一大ブランドになる日が来るのが待ち遠しいです。今後も取材を続け、まずは、2年後に遠藤さんが作ったワインが飲めるのを、楽しみに待ちたいと思います。
(岩見沢支局記者・竹村知真)
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