「障害があるから賃金が安くても仕方ない、というのはおかしい。仕方ないでは発展しない」
これは、2014年に愛知県豊橋市で障害ある人が作る「久遠チョコレート」を開業した夏目浩次さんの言葉だ。
2024年1月現在、北海道から鹿児島まで60の拠点を持つようになり、年商18憶円にまで成長。全国の企業や福祉事業所からビジネスに参画したいというオファーや、「ここで働きたい」という応募が殺到しているという。俳優・松山ケンイチさんが手掛ける資源のアップサイクルブランド-momiji-とのコラボも実現。1月11日には『カンブリア宮殿』(テレビ東京系夜11時~)で特集された。
出典/YouTube テレ東公式 TV TOKYO
さらに2月9日には夏目さんの著書『温めれば、何度だってやり直せる チョコレートが変える「働く」と「稼ぐ」の未来』が刊行となるという。長く障害者就労の現場を取材してきたジャーナリストのなかのかおりさんによる2018年の記事を再編成してお届けする。
できる人ができることをやる
バレンタインデーを控えた1月末から2月は、百貨店やオンラインでチョコレートを目にする機会が多い。各ブランドがしのぎを削る中、「久遠チョコレート」は和の食材を生かしたおいしさとおしゃれなビジュアルで人気が広がっている。百貨店で開かれているチョコレートの祭典でも、国内外の150ブランドのベスト30に入るほどだ。
味とビジュアル以外にも、このお店には大きな特徴がある。実は、障害ある人たちが作っているブランドなのである。
筆者は新聞記者時代から障害者の就労について取材を続けている。注目を集めている久遠チョコレートもその一つだった。2018年1月、「障害者のお店」を超えたフランチャイズが展開されているその理由を探しに、横浜店を訪ねた。
私鉄を乗り継ぎ、横浜市の妙蓮寺駅を降りて少し歩く。急行は止まらない駅だが、落ち着いた住宅街が広がる地域らしい。ここに、久遠チョコレートの横浜店がある。小さな店舗でも細長く奥行きがあり、ユニフォームを着て作業している様子が見えた。
店頭には、人気のチョコレート「テリーヌ」が並んでいる。チョコレートの中にドライフルーツやナッツを入れて固めたものをスライスしてあり、断面が美しい。種類もいろいろで、あられやほうじ茶、ユズなど和のテイストも。抹茶やイチゴのチョコレートは色がきれいだ。
好きなテリーヌを選んでおしゃれなパッケージに入れられるので、お土産にいい。私も購入し、お世話になった人にプレゼントした。自分でも一つ、仕事の合間に味わった。
店長の山本幸代さんは、「チョコレートがおいしいのは当たり前。ここはママさんや社員、障害のある人、いろいろな人が働いていて、できる人ができることをやる店です。障害のある人と一緒に働くと、素で生きていて無駄な鎧がないんですよ。私も別の業界で働いていましたが、健常者と呼ばれる人たちは、せっつき合いが大変ですよね」と話す。
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