紙の本に電子書籍があるように紙の楽譜には電子楽譜があり、大量の楽譜のなかから探しているものを見つけやすかったり収納する場所を取らなかったりといったメリットがあります。
現状電子楽譜環境を構築する上で一番人気なのがiPadを使った方法で、そのなかでも12.9インチiPad Proを使うと紙の楽譜に近い大きさで譜面を見ることが可能です。
今回は12.9インチiPad Proを使って実際に電子楽譜環境を構築しましたのでレポートしたいと思います。
なぜ12.9インチiPad Proが電子楽譜リーダーとして最適なのか
まずは数あるタブレット/電子楽譜リーダー/電子書籍リーダーのなかで、なぜ12.9インチiPad Proが電子楽譜用端末として多くの人から選ばれているのか解説します。
画面の大きさがA4に近い
最初の理由が画面の大きさです。
一般的な楽譜はA4サイズより少し大きめのサイズですが、余白を除くと譜面が印刷されている部分はほぼA4サイズといって良いでしょう。
12.9インチiPad Proの本体サイズはA4に近く、紙の楽譜と比べても違和感なく使うことができます。
横(mm) | 縦(mm) | |
---|---|---|
A4 | 210 | 297 |
12.9インチ iPad Pro(第5世代) | 214.9 | 280.6 |
Lenovo Yoga Tab 13 | 200.4 | 293.4 |
Microsoft Surface Pro 8 | 208 | 287 |
同じ13インチくらいのディスプレイを持つタブレットなら何でも良さそうにも思えますが、実は縦横比の点で問題があるタブレットも存在します。
たとえば上の表で挙げたLenovo Yoga Tab 13は10:16ですが、A4は10:14.14です。
これに対しiPad Proは10:13.33(3:4)と、Yoga Tab 13よりも縦横比がA4に近く、よりA4に近いサイズで表示ができるといえます。
タッチ操作に最適化されたiPadOSを搭載
縦横比の面ではMicrosoft Surface Pro 8も10:15(2:3)とA4に近いですが、Surface Pro 8が搭載しているOSはWindowsです。
昔より良くなったとはいえ、Windowsは元々タッチ操作を前提としたOSではありません。
電子楽譜を使う際はマウスやキーボードではなくタッチパネルを使って操作をおこないますので、タッチ操作を前提として開発されたiPadOSを搭載するiPad Proのほうに分があるといえるでしょう。
ProMotionディスプレイでバッテリーが長持ち
電子楽譜を使う際に気になるのがバッテリー駆動時間です。
長時間動作してくれないと使いたいときに使えないということになりかねません。
iPad Proには2017年(第2世代)から可変リフレッシュレート対応のProMotionディスプレイが搭載されており、電子楽譜の表示において優れたバッテリー性能を発揮します。
電子楽譜の使用時は、画面に同じ内容を表示する時間が長いため、CPUやGPUはほとんど動作しません。
しかしながら、内容が同じでも画面表示は定期的に更新(リフレッシュ)されるため、更新頻度が高いとバッテリー消費量が多くなります。
一般的なタブレットは60Hzという固定リフレッシュレートですが、ProMotionディスプレイは必要に応じてリフレッシュレートを下げることができ、Appleの開発者向け文書によるとiPad Proの場合は24Hzまで下げることが可能です。
実際、筆者が2018年発売の第3世代iPad Proで試したところ、1時間半ほど楽譜を表示し続けてもバッテリーが7%程しか減りませんでした(明るさは自動設定、晴れた日の午後南向きの窓のある部屋で使用)。
電子楽譜で挫折してもほかの目的で使える
電子楽譜向けとして、専用の電子楽譜リーダーも販売されています。
以前は日本でもGVIDOという端末が販売されていました(現在は終売)。
しかしながら、専用端末の場合、ほかの目的に使いづらいという欠点があります。
電子楽譜が好みに合わず紙の楽譜に戻った場合、専用端末が無駄になってしまいます。
さらに、ニッチな市場なので価格が高く、先述のGVIDOは198,000円(税込)と、第5世代12.9インチiPad Pro 1TB Wi-Fiモデル(213,800円(税込))並の価格でした。
iPad Proならさまざまな目的で活用できるためコストパフォーマンスが高いですし、たとえ電子楽譜で使わなくてもほかの目的で利用可能です。
電子楽譜に使うなら第3世代以降のiPad Proがおすすめ
12.9インチiPad Proは現在第5世代まで販売されていますが、中古まで含めると古い世代のほうが端末入手価格は安いです。
電子楽譜に使うなら性能の面ではどのiPad Proでも十分といえます。
実際、編集部の第5世代iPad Proと手持ちの第3世代iPad Proを使い比べてみましたが、電子楽譜を扱う上で差は感じませんでした。
ただ、古い端末は早めにOSのサポートが打ち切られる可能性があるのと、第3世代以降はディスプレイの周辺領域が小さくなっていることから、第3世代以降がお勧めです。
第4世代になるとカメラが強化され、第5世代になるとシステム・オン・チップ(SoC)がノートパソコン並のM1チップになりますが、いずれも電子楽譜表示にはそれほど大きく影響しないので、予算と相談して選んで下さい。
アプリはPiascoreがおすすめ
iPad Proで電子楽譜環境を構築するなら、アプリはPiascoreがおすすめです。
世界で300万人以上のミュージシャンが使っているという、電子楽譜ユーザーの定番アプリといえます。
IMSLPと連携
このPiascoreが優れている点は色々あるのですが、最初に挙げられるのがInternational Music Score Library Project(国際楽譜図書館プロジェクト、IMSLP)との連携です。
IMSLPは著作権の切れた楽譜を無料公開しているサイトであり、特にクラシックの分野では非常に多くの楽譜を入手できます。
演奏したいと思ったらすぐに楽譜を入手できるのは大きなメリットです。
録音、チューナー、メトロノーム機能搭載
Piascoreには録音、チューナー、メトロノームといった演奏に欠かせない機能が搭載されています。
iPad Proさえ用意すればこれらが使えるので非常に便利です。
なお、録音とチューナーの利用にはアプリ内課金(610円)が必要ですが、課金する価値はあります。
書き込みと印刷が可能
Piascoreでは、iPad Proのタッチパネルを使って楽譜に自由に書き込みができます。
手書きはもちろん、音楽記号のスタンプの利用や文字入力、色の変換も可能です。
書き込みは消すことができ、何度でも書き直せます。
また、アプリ内課金をおこなえば印刷機能やメール送信機能が使えるため、書き込んだ楽譜を紙として持ち歩いたり他者と共有したりするのも簡単です。
購入したい周辺機器
iPad ProとPiascoreを導入したら一緒に購入したい周辺機器があります。
足で踏むことで譜めくりができるAirTurnシリーズ
Piascoreは画面フリックで譜めくりができますが、両手を使う楽器では演奏しながらの譜めくりは困難です。
一定間隔で楽譜を自動スクロールさせたり、ウインクや口の動きで譜めくりしたりする機能がPiascoreに搭載されているものの、一番確実なのは足で踏むことで譜めくりができるAirTurnシリーズの導入でしょう。
普段足を使わない楽器の奏者は慣れが必要ですが、慣れれば紙の譜面よりも快適に譜めくりができます。
譜面台型タブレットスタンド
iPad Proを机の上に置いて電子楽譜を表示してもいいですが、譜面台型タブレットスタンドを使えばより紙の楽譜に近い形で利用できます。
折りたたみスタンドであれば使わないときは収納でき、また携帯も可能です。
書き込み用のペン
譜面への書き込みは指でも可能ですが、細かい五線譜に書き込むならペンがあったほうが便利です。
iPad用のペンといえばApple Pencilですが、電子楽譜への書き込みだけならオーバースペックですので、格安の互換ペンが良いでしょう。
ちなみに、上で紹介した挟み込むタイプの譜面台型スタンドを使うとiPad Proの側面にペンを吸着することができません
色々試したところ、iPad Proの背面に吸着できることがわかりました(第3世代iPad Pro)。
表から見えないため演奏の邪魔にならないところもお気に入りです。
見開きで楽譜を表示する方法も
iPad Proを使うと快適な電子楽譜環境が構築できますが、一点だけ紙の楽譜にかなわないことがあります。
それは縦表示にした場合iPad Pro 1台だけでは楽譜を見開きで見られないという点です。
見開きのほうが譜めくりの回数が減り、さらに紙の楽譜に近づきます。
それを実現するのが「富豪ブック」アプリです。
このアプリはPDFファイルを2台のiPadOS/iOSデバイスで1ページずらした状態で表示し、ページめくりをすると1ページ飛ばしでめくることにより見開き表示ができます。
12.9インチiPad Proを2台買うのには大金が必要ですが、どうしても見開きで使いたい場合は検討してみてください。
電子楽譜なら12.9インチiPad Proがおすすめ
この記事で紹介してきたように、12.9インチiPad Proを使うと快適な電子楽譜環境を構築することができます。
紙の楽譜の電子化については、いわゆる書籍の「自炊」と呼ばれる電子化の方法がそのまま使えるでしょう。
たくさんの紙の楽譜を持っている人は電子化が大変かもしれませんが、ぜひ挑戦してみてください。
Source: Apple
(ハウザー)
March 30, 2022 at 09:00AM
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