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【書評】『さらば、神よ 科学こそが道を作る』 - 産経ニュース

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 ■科学的思考の教科書

 著名な生物学者で科学に関する啓蒙(けいもう)活動を精力的に展開するドーキンス博士の最新刊。

 本書のメッセージは、邦題に端的に表されているとおりだ。宗教による制約から脱して科学的な思考法を身につけようという年来の主張があらためて繰り返されている。

 だが、そう聞いて、またいつものドーキンス本かとあなどってはならない。本書には独自の特色がある。それはとりわけ若い読者に向けて書かれている点だ。原題にある「アウトグローイング」という言葉は、子供が成長して服が着られなくなる様子を指す。知的に成長した人は宗教に飽き足らなくなる、というわけだ。

 だが、そう聞いて、なんだ子供向けの本かとあなどってもならない。哲学者イマヌエル・カントは、啓蒙とは人間が知性の未成年状態を脱すること、つまり自分でものを考えられるようになることだと言った。これは若者に限らず近代人すべての課題ではないだろうか。

 本書は大きく2部に分かれる。前半は神々の物語、なかんずく聖書とキリスト教の教義に関する詳細な解説と批判だ。作り話にすぎない宗教の教義がいかに人びとから自分で確かめ、考える力を奪っているかを熱心に説いている。

 だが、そう聞いて、キリスト教に縁の薄い日本人には関係ないやとあなどってもならない。良質な批判の多くがそうであるように、本書は批判対象であるキリスト教と西洋文化に関する優れた解説となっている。それだけではない。キリスト教徒であろうとなかろうと、われわれが本当に知性の未成年状態から脱することができているかどうかは必ずしも明らかではない。

 震災、原発事故からコロナ禍にいたるまで、はたしてわれわれは成年にふさわしい知性を発揮してきただろうか。相変わらず誤情報や怪情報に踊らされ、世間の空気におびえてはいないだろうか。本書後半で展開される進化生物学に基づいた科学的思考のレッスンは、われわれが知性の未成年状態を卒業する手助けをしてくれるだろう。

 ドーキンスのファンにもアンチにも、子供にも大人にもお薦めしたい科学的思考の教科書である。(リチャード・ドーキンス著、大田直子訳/早川書房・2300円+税)

 評・吉川浩満(文筆家)

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August 30, 2020 at 12:00PM
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