研究成果のポイント
令和元年の厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」によると、20歳以上の日本人男性の約3割、女性では約2割が肥満者(BMI値≧25 kg/m2)となっています。以前から、肥満者の腸内細菌叢には、共通の腸内細菌科細菌が増加しているとの報告がなされ、近年、肝疾患と肥満との関連性も指摘されています。
広島大学 大学院医系科学研究科 未病・予防医学共同研究講座では、今回、イチジクの葉から取得した植物由来乳酸菌(植物乳酸菌)Lactobacillus (Lb.) paracasei IJH-SONE68の産生する細胞外多糖体(exopolysaccharide, EPS)を経口摂取すると、肝機能数値と慢性肝障害に関わる腸内細菌叢とが改善されることを、ヒト臨床研究で明らかにしました。
IJH-SONE68株がつくるEPSにはヒトの通年性アレルギーや、モデル動物の接触性皮膚炎や潰瘍性大腸炎の症状を改善する作用があることを見出しており、今回発見したこのEPSの新機能として、慢性肝障害を改善する薬剤となる可能性が期待されます。
概要
肥満I度(BMI値が25 kg/m2以上, 30 kg/m2未満)の被験者ボランティアに、IJH-SONE68株由来EPSを含むカプセルを12週間摂取してもらい、BMIや内臓脂肪面積、生活習慣病に関連した血液検査を受けていただくとともに、摂取期間前後の便中に含まれる菌叢解析を行い、それぞれ比較しました。
その結果、本EPSの摂取によって肝機能数値であるASTとALTの値が共に低下する傾向が認められました。さらに、肝炎の抑制に寄与すると考えられるAnaerostipes属細菌群の腸内細菌叢中に占める割合が有意に増加することを確認しました。
本研究成果は2022年10月26日にオンラインジャーナル「Nutrients:Impact factor = 5.717」に掲載されました。
論文情報
- 掲載タイトル:Plant-Derived Lactobacillus paracasei IJH-SONE68 Improves the Gut Microbiota Associated with Hepatic Disorders: A Randomized, Double-Blind, and Placebo-Controlled Clinical Trial
- 著書:Narandalai Danshiitsoodol1、Masafumi Noda1、Keishi Kanno2,3、Tomoyuki Uchida3 and Masanori Sugiyama1,3,*
1 Department of Probiotic Science for Preventive Medicine、Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University
2 Department of General Internal Medicine、 Hiroshima University Hospital
3 Department of Clinical Pharmaceutical and Therapeutics、 Hiroshima University
* corresponding author - 掲載雑誌:Nutrients (2022) 14, 4492.
(WEB掲載先 https://ift.tt/8XE4MP5)
発表内容
【研究の背景】
日本ではBMI(body mass index)値が25 kg/m2を超えると肥満と見なされ、2型糖尿病や循環器疾患を患うリスクが高くなり、内臓脂肪も増えていく傾向がみられます。厚生労働省の令和元年「国民健康・栄養調査」によると、日本人における肥満割合は男性では31.3%、女性では20.6%となっています。また、肥満者は世界的にも増加傾向にあります。
非アルコール性脂肪性肝疾患(Non-alcoholic fatty liver diseases, NAFLD)を患う要因として肥満が挙げられます。NAFLDの中でも非アルコール性脂肪肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis, NASH)は単純性脂肪肝とは異なり、肝炎から線維化へと進み、さらに肝硬変を経て肝がんへと進行します。
大学院医系科学研究科 未病・予防医学共同研究講座(杉山政則教授)では、未病改善と予防医療に有益な植物由来乳酸菌(植物乳酸菌)の分離探索研究を継続的に進めています。現在までに遺伝子レベルで同定した1,200株を超える植物乳酸菌株のうち、イチジクの葉から得られた乳酸菌Lb. paracasei IJH-SONE68の産生するEPSが、炎症性疾患のモデルマウスの症状を改善する効果を持つとともに、肥満マウスの内臓脂肪量を低減化させることを突き止めました。そこで、EPSの有効性と安全性を検証すべく、被験者ボランティアを募ってヒト臨床試験を実施しました。
【研究成果の内容】
臨床研究は、当講座のNarandalai Danshiitsoodol特任講師と野田正文特任准教授、そして広島大学病院総合内科・総合診療科の菅野啓司准教授が担当し、臨床研究に参加した被験者80人を、IJH-SONE68株由来EPSを含むカプセルを摂取する群(試験食群)と、EPSを含まないカプセルを摂取する群(プラセボ群)とに分け、それぞれのカプセルを12週間摂取してもらいました。評価項目として、内臓脂肪面積、体脂肪率、腹囲、BMI値などのほか、血液検査では血糖値、血中脂質、肝機能数値などを測定しました。それに加え、糞便中に含まれる腸内細菌叢も調査しました。これらの評価項目については、各カプセルの摂取期間前後における結果を、試験食群とプラセボ群の2群間で比較しました。
その結果、試験食群はプラセボ群と比べ、肝機能を示すASTとALTの値がそれぞれ低下する傾向が認められました。また、試験食群においては、肝炎を抑制すると考えられている腸内細菌科細菌であるAnaerostipes属の占有率が有意に上昇していることが判明しました。
【今後の展開】
IJH-SONE68株の産生するEPSには、これまで、ヒトでの抗アレルギー作用に加え、接触性皮膚炎や潰瘍性大腸炎といった他の炎症性疾患にも有効であることが、動物実験により確認されています(それぞれ2022年1月と2021年11月にプレス発表しています)。
植物乳酸菌IJH-SONE68株はパイナップル果汁で培養すると活発に増殖し、多量のEPSを分泌することから、パイナップル果汁発酵液を粉末化してからカプセルに詰めたものを、今回の臨床研究の試験食としました。本菌株由来のEPSはカプセル化や錠剤化が容易なため、摂取しやすいサプリメントとして製品化を進めています。今後は、機能性表示食品としたり、医師主導型の治験を通じ、慢性肝障害や炎症性腸疾患の治療薬としての開発を目指し、製薬企業と産学連携研究を進めます。
【参考資料】摂取前後における肝機能数値とAnaerostipes属細菌群存在比率の変化
12週間の摂取期間前後における肝機能数値(ASTおよびALT, 図A)と糞便中のAnaerostipes属細菌群の存在比率(図B)の変化について、試験食群と対照食群とでそれぞれ参加者の平均値を算出し、比較しました。その結果、対照食群と比べ、試験食群では肝機能数値が低下傾向を示していること、そしてAnaerostipes属細菌の比率が有意に増加していることがわかりました。
【お問い合わせ先】
大学院医系科学研究科
未病・予防医学共同研究講座 教授 杉山 政則
Tel:082-257-5280 FAX:082-257-5284
E-mail:sugi*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
November 02, 2022 at 08:17AM
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【研究成果】イチジクの葉から取れた乳酸菌の作る物質が、肝炎を抑える腸内細菌叢を増やす~軽度肥満者の臨床試験で確認。肝機能改善の傾向も~ - 広島大学
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