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石垣島の限界集落で木造船を作る移住者 地域と人間関係に光を当てたドキュメント「丸木舟とUFO」 - 映画.com

tsukuru.prelol.com

2022年9月22日 14:00

「丸木舟とUFO」
「丸木舟とUFO」

探検家・関野吉晴が、手作りの船でインドネシアから日本まで航海するプロジェクトに4年間密着取材し、3年の歳月をかけてドキュメンタリー映画「縄文号とパクール号の航海」を完成させた水本博之監督。前作で小さな木船に乗り合わせたクルーたちの交流や葛藤をつぶさにとらえた水本監督の新作ドキュメンタリー「丸木舟とUFO」が、9月24日からポレポレ東中野で封切られる。

本作で水本監督がカメラを向けたのは、沖縄県の石垣島北部にある久宇良集落。かつては開拓移民の集落として栄え、現在は高齢化と過疎化が進むこの地で出会ったのが、東京からの移住者・吉田友厚さん一家だ。地域の先輩たちと関係を築きながら、今では沖縄の伝統的な木造船「サバニ」の船大工として、地域の中核を担うまでになった吉田さん。人口20数名という限界集落にこそ、新しい「家族」の形を見たという水本監督のインタビューが公開された。

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■「ふたつの移民」の関係性を映す

──まずは、本作が生まれた経緯を教えてください。

はじめて吉田友厚さんと出会ったのは2020年の秋です。あるアーティストとの共同プロジェクトで石垣島を訪れた際に、貴重なサバニをつくっている船大工として紹介されたのが吉田さんでした。実は、出会った当初は吉田さんのことを映画にするつもりはありませんでした。船をつくる技術はすごいし興味はあるけど、多くの人にとっては関係ない話だからです。

──では、映画を撮るにあたって何か別の理由があったのでしょうか。

はい。吉田さんと地域のおじさんたちの関係を見て、この関係性を映画にしたらいいんじゃないかと思いはじめたんです。映画で描いているように、久宇良は開拓移民の集落です。沖縄本土から来た移民の人たちが苦労して拓いた土地に、吉田さんのような新しい移住者がやってくる。いわば「ふたつの移民」が共生して、自分たちの土地を未来につなげるべく模索しています。

いま、日本の多くの地域が過疎の問題を抱え、移住者を歓迎していますが、移住者が地元の人たちと折り合うのは簡単ではないですよね。その点、吉田さん一家は何も持っていない貧しい家族として久宇良にやってきて、集落のおじさんたちにいろいろ教えてもらいながら、やがて地域の中核になっていきました。時間はかかっているけど、そこには人と人との本当の関係性があると思います。

前作の「縄文号とパクール号の航海」は、同じ船に乗り合わせた異なる価値観の人たちが、どう折り合っていくかがメインテーマでした。そのうえで自然環境や自分の生きている世界との折り合いの付け方を描いた作品ですが、そういう意味で「丸木舟とUFO」も同じテーマを描いていると言えます。

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■ 船に導かれて

──とはいうものの、前作も本作も船(づくり)が大きなキーになっていますね。

それは間違いないですね。もし、吉田さんがサバニをつくっていなくて、単に集落でうまくやっているだけの人だったら映画は撮っていなかったと思います。前作で船を撮ったことで、特にエンジンを使わない木造船の魅力は分かっていますし、影響は少なからずあったと思います。いま、次回作の候補として、インドネシアでマグロ漁師の撮影をしていますが、彼らもエンジンを使わない木造船の文化をかろうじて残しています。

船は生活の場でもあるし、フィリピン最北端の地域では、お墓が船の形をしているんですよ。「丸木舟とUFO」でも、丸木舟を棺桶にしようという話がありましたが、船は常に境界線を漂うというか、意思次第でどちらにも行って戻ってこられるモチーフだと思います。

■ リアリティに裏打ちされた人々の営み

──「縄文号とパクール号の航海」は手に汗握る冒険譚でもありますが、「丸木舟とUFO」はもっと身近な生活にカメラを向けています。

やっていることだけで見れば「縄文号とパクール号の航海」のほうが派手ですが、あれは一種のイベントで、ライフワークではありません。航海が終われば、それぞれが別々の方向に向かって人生を歩んでいきます。それに対して、「丸木舟とUFO」で撮っているのは現実の生活そのもので、現在進行形の人々の営みなんです。

いま、ネット上には「自然のためにこうすべき」といった標語のような言葉があふれています。そういうことを言うとモノを考えているように見えるし、そうした言葉に振り回されがちですが、そこには生活がない。生活者としてのリアリティがない言葉を僕は信用できません。

その点、久宇良の人々の言葉は全部がリアルで信用できるんです。映画の中に水源地の清掃シーンがありますが、命綱である水を自分たちで管理している久宇良の人たちは、東京に暮らしている私たちよりはるかに強いです。彼らは集落の水道が壊れたときも、水道業者を呼ばずに自分たちで直すんですよ。吉田さんの娘の宇良さんが水源地の清掃をはじめてしたときに、実際に掃除をしてみると水がよりおいしく感じられると言っていましたが、この水がどこからどうやってきているかを体感したうえで味わうことは大きな悦びだし、すごく人間的な営みだと思います。

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■ 現実社会で幸福に生きる

──限界集落と聞くとネガティブなイメージが先行しがちですが、久宇良の人たちを見ると、久宇良のような場所こそが、未来の共同体の姿のような気がしてきます。

タイトルにあるように、本作のもうひとつのキーはUFOですが、久宇良ではイベント事があるたびにみんなで集まって飲むんです。その流れでUFOを探すのが集落でブームになっているんですが、多くの人が同じ空を一緒に見つめること自体、奇跡的なことだと思います。だって、東京では月や星ですら、あんなふうに誰かと一緒に眺めないでしょう。20数人しかいない集落と聞くと寂しいと思われるかもしれませんが、久宇良の人たちは、よく集まってみんなで酒を飲んで空を見ているから、孤独ではないんです。

丸木舟とUFO」には「そのかがやきは UFOか 家族のカタチか」というコピーをつけました。この「家族」というのは、吉田さん一家のことだけでなく、集落全体を指しています。いろんな人が同じ場所にいて、そこでお互いがどう折り合っていくか。「縄文号とパクール号の航海」でも、航海1年目は解散の危機がありましたが、「自分たちはすごいことをやっている」とみんなが意識しはじめたあたりから、いろんなことが動きはじめました。本来、人間はまったくバラバラの存在ですが、関係性が成熟したときに、コミュニティはポジティブなものを生み出せると思うんです。

コミュニティの中で、人はつい過激なことを言って支持を集めようとしますが、それはあくまで一瞬の熱狂で、そこに持続可能性はありません。「縄文号とパクール号の航海」で、夢のような冒険を終えて現実に立ち戻り、ではどうやったら私たちはこの現実社会で幸福に生きていけるのか。それを考えているのが「丸木舟とUFO」と言えるかもしれません。

(取材・構成=木村奈緒)

(映画.com速報)

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September 22, 2022 at 12:00PM
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