古書店が集まる東京・神保町。1887年(明治20年)創業の画材店「
恩田さんの仕事場「恩田製本所」は隅田川沿いの下町にある。8畳ほどの工房では、祖父の代から官庁や企業の帳簿を作っている。
恩田さんは高校卒業後、職人の見習いになった。「最初はノリを水で薄める作業ばかり。『濃い』『薄い』と毎日怒られたが、紙質や接着する部分に応じた濃さを感覚で覚えた」。製本は先輩のやり方を見て覚え、顧客に一人前と認められるまで15年を要した。
8年ほど前、印刷会社から電話がかかってきた。「手縫いのノートは作れますか」。聞けば、昔のノートを再現したいという。「ああ、できるよ」
文房堂はその頃、大学ノートを「財産」として復刻しようとしていた。その実物は店の書庫にある。寸法はB5判より一回り小さい「7寸5寸5分」で、ページ数は144。灰色の表紙には鳥や花の図柄。かなり上質なものだったらしく、国語教育者の大村はまさん(2005年死去)は、大正時代に文房堂のノートを手にしたときの高揚を「大村はま自叙伝 学びひたりて」(共文社)にこう記す。「それは私の心を震わせるほどのノートでした。(中略)パールの紙で滑らかで、それにセピアかセピアに少し紫の入ったような、あまりきつく見えない美しい
紙やインクは現代でもそろうが、問題は製本だ。そのノートは糸でとじられている。「方々に聞いたが『作れない』と断られた。取引先の印刷会社に相談し、行き着いたのが恩田さんだった」。文房堂の広瀬俊道社長(63)は振り返る。
現物を見た恩田さんは再現を約束した。とじ方は、見習い時代に最初に覚えたやり方だったからだ。試作品を手にした文房堂の担当者は「これだ」と喜んだ。
January 30, 2021 at 06:38AM
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東京に5人もいない職人が作る「帳簿糸かがり綴じ」…「先人がライバル」という製本の世界 - 読売新聞
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