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健康なTHE MODEL型組織、どう作る? 「戦略・人材・オペレーション」の基礎 - ITmedia

tsukuru.prelol.com
画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 これまでの記事では、“THE MODEL型組織”の概念、その中でも比較的新しいカスタマーサクセスやインサイドセールス組織の立ち上げについて触れてきた。

 今回は個別組織ではなくTHE MODEL型組織全体を俯瞰し、立ち上げ・運営の中で重要な点を「戦略・人材・オペレーション」の3つの観点から考えていきたい。

【戦略】「売れることが正義」からの脱却

 戦略と一口に言っても組織や採用、財務、デジタル化などさまざまなトピックがあるが、最も重要なのは間違いなく「顧客戦略」だ。

 サブスクリプション型の事業においては「当社にとっての顧客は誰か」が定まっているかどうかが事業の成否を分ける。

 売り切り型事業モデルにおいては「売れた顧客こそが正しい顧客だ」とする風潮があった。売れた後にもしミスマッチが発覚したとしても企業が被る不利益が少ないため、多少のズレを承知の上で新規売り上げを重視する傾向は根強い。

 しかし、同じ感覚でサブスクリプション型事業を運営していると容易に事業が破綻する。それはなぜか。

 サブスクリプション型は、長期間にわたって顧客に利用いただくことで利益が出るモデルだ。仮に営業フェーズで売れたとしてもニーズのミスマッチがあれば短期間での解約につながる。初期費用や月の課金額がそこまで大きくないこの事業モデルにおいては、それは赤字を意味するのだ。

 では、長期的に顧客に利用いただくにはどうすればよいのか? それには自社サービスが顧客の役に立っていること、つまり「誰のどんな課題を解決するのか」が定義されている必要がある。それは裏を返せば、「役に立てない顧客や課題」を定義することでもある。

 その他の戦略よりも顧客戦略が重要なのは、顧客はTHE MODEL型の全組織に共通して関わるからだ。マーケティングからカスタマーサクセスまでの各フェーズにおいてこの顧客の認識がずれていては、顧客が「これは役立つ」と感じる体験を提供することは不可能だろう。

 また各組織でどのような取り組みを行うかや、求める人材要件なども「誰にどんな体験を提供するのか」という考えがスタート地点になるので、ここの軸を定めることが非常に重要だ。

 正しい顧客を定めるための具体的な取り組みとして、各組織のリーダーが集まってカスタマージャーニーを作ったり定期的に顧客像を擦り合わせたり、顧客のセグメンテーションを確認したりといったことが挙げられる。サービスを提供してはいけない顧客から考えることも、有効な手段だ。

【人材】営業か、カスタマーサクセスか

 次は人材の配置、すなわちどういった手順で事業・組織を拡大していくかだ。このトピックで必ず議論になるのが、カスタマーサクセス強化(既存顧客のリテンション)から始めるか、営業強化(新規獲得)から始めるかという点だ。

 事業フェーズによっても異なるため、一概に正解があるわけではない。カスタマーサクセスが手薄な状態は「穴の空いたバケツ」と称され、そのままではいくら新規の顧客を入れても成長が見込めない。一方で、新規獲得が新たに生まれない状態では支援する既存顧客が増えないため試行錯誤もできないだろう。

 そういった前提を踏まえつつ、どこから着手するかを考える上での観点を2つご紹介したい。

 1つは着手してから成果が出るまでの期間だ。カスタマーサクセスはマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスなど他の組織と比べても成果が出るまでに時間がかかる。顧客の更新が最終的な成否の判断になるため、取り組みを始めてもその結果が分かるのは1年後ということも珍しくない。

 時間がかかる取り組みは、他よりも早めに着手しないと手遅れになる可能性が高いので注意が必要だ。

 2つ目は戦略パートで触れた「正しい顧客の定義」が全ての起点になるということだ。正しい顧客の土壌がない限り、THE MODELの方向性を描けないので、もしその定義が不十分であればその理解を深められるフェーズであるカスタマーサクセスを起点に強化すると良いだろう。

 最終的には各事業の現状と照らし合わせての判断になるが、上記の観点も踏まえると、顧客の定義を担いうるカスタマーサクセスを起点に組織を強化していくのは一つのセオリーだ。当社でも、紹介した双方の観点からまずはカスタマーサクセスの強化に着手し、そこで得られた顧客像や成功コンテンツを営業フェーズの拡大に活用するという戦略を選択している。

【人材】ボトルネックの特定を怠るな

 もう一つ組織を強化していく上で重要な点がある。それは必ず「今のボトルネックを特定して動く」ということだ。

 よくあるのが、組織ごとの課題を挙げそれをそれぞれの組織内の努力で改善して成果を上げようとするやり方、いわゆる個別撃破戦法だ。THE MODEL型では組織が複数に分かれているので、こういう手法に走りがちだがこのやり方はうまくいかないことが多い。

 なぜなら、まず成果を上げるためのポイントはマーケ→セールス→カスタマーサクセスまでのフローの全体に散らばっているわけではなく、どこか1つに集約されていることがほとんどだから。そしてもう1つの大きな理由は、その課題は該当する1つの組織だけが頑張れば解消されるわけではなく、全組織が協力し合わないと解決することができないからだ。

 例えば、カスタマーサクセスにおいて顧客の解約率が高い、という課題があったとして、それをカスタマーサクセスだけで解けるだろうか?

 答えはNOだ。カスタマーサクセス内の改善は当然必要だが、それだけでなく、そもそも「どんな顧客に売れば継続しやすいのか」という観点をマーケやセールスとシェアし、協力してもらうことが必須だ。

 このように、全フェーズの中でボトルネックがどこかを常に考え続け、そしてそれを全組織を上げて解決する、という営みを繰り返していくのが事業成長のポイントになる。

【オペレーション】KPIはシンプルさと後工程意識のバランスを

 最後にオペレーションの観点だ。リーダーの仕事はメンバーの業務を組織の成果に転換することに尽きる。そのためにはメンバーが何を目指すべきかという目標、つまり業務のKPIをどのように置いてマネジメントするかという観点が重要になる。

 過去の記事でも触れたが、事業の目標として財務的な経営KPIがありリーダーはこれらの数値に責任を持っている。しかしそれをそのままメンバーの業務のKPIとしても振り返りのタイムスパンと一致せずにワークしないことが多い。

 カスタマーサクセスではチャーンレートなどが財務指標になるが、契約期間単位でしかPDCAが回らないため、チャーンに向けた中間KPIとしてヘルススコアを活用する場合がある。インサイドセールスでも商談からの受注金額が財務KPIとしてありつつ、そこに向けた指標として商談数や商談を作るためのアクション数をKPIとして置く。

 このように、経営KPIとは別に業務の目指す方向を決める行動KPIを設定することで、目先の業務と財務KPIの連動性を持たせつつ、足元の活動をドライブさせることがTHE MODEL型の組織を運営する上でのポイントになる。

 KPIを設定する際は2つの視点のバランスを大切にすると良い。一つはシンプルさだ。あまりに複雑な目標設定をすると自分が何を目指していいかが分かりづらくなり、力を発揮しにくくなる。短期かつ単一の目標を設定したときの組織のパワーは限りなく大きくなる。

 もう一つの視点は後工程への意識だ。実はこれはシンプルさとは相反する概念なので、バランスが重要になる。THE MODEL型の組織は4つの組織が同じ方向を向いて連動することが重要なので、自組織が目指すことで他組織との相反が大きくなりすぎるようなKPI設計をしてしまうと組織同士のサイロ化につながってしまう。

 後工程を意識したKPIの例としては、営業が受注額をメインのKPIとしつつ初回更新率をサブのKPIとして持つ、あるいはインサイドセールスが商談創出数をメインのKPIとしつつ受注率もサブのKPIとして追うなどだ。

 カスタマーサクセスの場合でも、顧客の成功事例が一周してマーケティングに寄与するため、成功事例の数をKPIに置くといった工夫も可能だ。

 以上のように、THE MODEL型組織の運営では多岐にわたる要素が事業成果に関わってくる。集中してリソースを投下する部分を選定しながらも、常に広い視野で現状課題を把握し続ける意識を持って臨んでいただければ幸いである。

著者紹介:礒野亘(いそのわたる)

株式会社ビービット カスタマーサクセス

京都大学経済学部を卒業後、ビービット入社。コンサルタントとして教育・メディア・金融など50以上の企業でUX改善・成果向上に従事。その後、UXコンサルティングプロジェクト責任者を経て2018年よりUXチームクラウド『USERGRAM』のカスタマーサクセス立ち上げ・運営に携わる。累計300社以上のUX企画推進・人材育成を支援し、2021年よりインサイドセールス責任者。

株式会社ビービット:https://www.bebit.co.jp/

Twitter:@wataridori89102


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