看板タイトル『パズル&ドラゴンズ』(以下、パズドラ)が国内累計5900万ダウンロード、キッズ層を取り込んだ『ニンジャラ』が世界累計900万ダウンロードを突破。2021年6月に配信を開始した『ラグナロクオリジン』も好調のガンホー・オンライン・エンターテイメント。堅調な成長を続ける中、22年の戦略を森下一喜社長CEO(最高経営責任者)に聞いた。
『パズドラ』はサービス開始10年
――2021年12月期の通期決算では、売上高が前年比5.8%増、営業利益が同8.8%増と堅調でした。
森下一喜氏(以下、森下) 確かに1年間を通した売上高の伸びは堅調でしたね。底堅く業績を支えている『パズドラ』は、22年2月にサービス開始10周年になりました。「10年間運営し続けてすごいですね」と周囲から言われるのですが、実はそんなに達成感はないんです(笑)。
10年は1つの過程に過ぎません。ユーザー数が伸びる中でも楽観視したことは一度もなくて、毎年危機感を持ってやっていますから、ずっと走り続ける“終わらないマラソン”のような感じです。駅伝みたいにバトンタッチできれば、少しは楽になるんでしょうけど、それができる状況じゃないですからね。
――『パズドラ』が10年続くタイトルになった理由は何でしょう?
森下 スマホゲームで10年間続けるのはなかなか難しいものです。いろいろな施策を実施しても、どうしても飽きられてしまいがちです。そういう状況でも、『パズドラ』は社外IP(知的財産)とコラボレーションをすることで人気キャラクター経由で(ユーザーの)“掘り起こし”ができたのが大きかったのではないかと思っています。
現在は『パズドラ』をプレーしていないけれど、アプリを削除したわけではないというユーザー、あるいはまだ『パズドラ』を知らない若年層ユーザーにも、コラボレーションで喜んでもらえますから。
ただ、実際のところは、どの施策が効果があったのか正直分からないんです。コラボレーションかもしれないし、「魔法石プレゼントキャンペーン」なのかもしれません(笑)。久しぶりに『パズドラ』をやってみようか、初めてだけどやってみようか――というきっかけは人それぞれですからね。要は、良いタイミングで施策が提供できるかがカギなんだと思っています。
――Nintendo Switch用のアクションゲーム『ニンジャラ』やスマホ向けMMORPGの『ラグナロクオリジン』はどのように評価していますか?
森下 予想と違ったのは『ニンジャラ』ですね。思いのほかキッズ向けになりました。悪い意味ではなくて、むしろ良いことなんですが、自分たちが想定した以上に子供たちに受け入れられてしまったんです。
リリース当初からキッズ狙いだったんですかってよく聞かれるんですが、本当は「子供から大人まで」としていた想定ターゲットが「子供だけ」になってしまった感じです。結果的にキッズ層に受け入れられたことから、本腰を入れて子供たちにフォーカスすることにしました。22年からは、TVアニメ『ニンジャラ』の放映も始まり、キッズ層向けの態勢はしっかり整ったと思います。
『ニンジャラ』は無料でダウンロードできるので、事業としての売り上げは大きな上昇ではないんですが、キッズ層の獲得というのは狙ってもなかなかうまくはいかないものですから結果としては良かったです。今後は『ニンジャラ』をIPとしてどう育てていくかに意識を振り向けようと思っています。
『ラグナロクオリジン』は22年で20周年を迎える「ラグナロクシリーズ」の最新作ですが、正当な後継タイトルといえる仕上がりになりました。21年6月のリリース直後から非常にいい形でスタートが切れました。東南アジア地域の売り上げが少し落ちた時期もありましたが、国内はずっと良い状態で続いています。
MMORPGの構成要素の中でも、“コミュニティー”という「ラグナロク」の一番いいところがしっかり生きています。他社のMMORPGにもそれぞれコミュニティーはあるんですが、「ラグナロク」は独特で、ファンの方々に長く支持されてきました。『ラグナロクオリジン』のコミュニティー部分は『ラグナロクオンライン』を継承しているので、昔、PCで『ラグナロクオンライン』をプレーしていたユーザーにとっても遊びやすいと思います。
『ニンジャラ』のゲーム大会は継続したい
――eスポーツの大会がオンラインになったりと、21年はリアルなイベントの開催がなかなかできない状況でした。その影響はありましたか?
森下 『ニンジャラ』では当初、全国を回って子供たちにタッチ&トライしてもらうという計画がありました。トラックにいろいろな機材を積んだキャラバンで、全国を回りたいと思っていました。21年、そういう計画が全部なくなってしまったのは残念でした。
ですから、そういうイベントをオンラインでどう実現できるのかと考えています。オンラインなら、キャラバンで行けない場所にも大会の様子を届けられますし。
ただ、実際のリアルイベントとオンラインイベントでは熱量が違うんですよね。世の中にあるeスポーツとはちょっと違い、『ニンジャラ』のゲーム大会に出てくる選手は将来プロゲーマーを目指す大学生などではなくて、小学生ですから。
その子供たちがまたうまいんです。見ていてかわいいですよ(笑)。そしてゲーム大会の会場の熱量がすごいです。だから早くリアルで大会を実施したいのです。野球もテレビで視聴するより、野球場の観戦のほうが観客の熱気が感じられますよね。そういう場の共感が欲しいんです。
僕たちだって、子供の頃にプレーしたゲームは思い出として強烈に記憶に残っているじゃないですか。いつどこで、どんなプレーをしたか。そのゲームを買ったときのことだって覚えていたりします。『ニンジャラ』のキッズたちにも、そういう“苗”を植えているステップなのだと考えています。新しい子供たちの層が、次の世代、次の世代と入ってきてますしね。今はまだ話せませんが、『ニンジャラ』の次のステップも考えています。
――ゲームを長く楽しんでもらうには、どんなことが必要だとお考えですか?
森下 ゲームはきちんと循環した“エコシステム”でなくてはならないと思っています。コラボ企画だけ実施していればいいわけではありません。ユーザーが楽しめる様々な施策が、重層的に必要になってきます。
アクティブユーザーの動向をデータとして捉えて、今どのような施策をすれば一番良いのかを常に考え続けることが大事なんです。そういうゲーム運営を、昔は手探りでやっていました。でも今は詳細なデータもありますし、長年の経験則もあります。そういったツールをどう使っていくかが重要だと思いますね。
メタバースの現状はカオス
――22年のラインアップに『DEATHVERSE: LET IT DIE』というタイトルがありますが、これは何かメタバースを連想させます。今盛んに言われるようになったメタバースと関係があるのでしょうか?
森下 このタイトルについては詳細をお話しできないんですが、メタバースとは全く関係ありません(笑)。でも、03年くらいだったかな、メタバース的なことを言及したことがあるんですよ。1つのゲームの中で、そのゲームの世界観の中で、みんなそろって“何かをやる”ということを、ですね。実際、03年に、米リンデン・ラボの「Second Life」がリリースされたとき、米サンフランシスコまで飛んで、運営している様子を視察しました。
それで、05年に運営を始めた『エミル・クロニクル・オンライン』というMMORPGの中で、実験をやりました。ゲームの中で入場チケットを売って、ゲーム空間内にみんなで集まって一緒に映画を見たり、ゲームの世界観の中に企業広告を取り入れたり、今で言うメタバース的な取り組みを実現してみたんです。
現在、メタバースはいわゆるMMORPGのゲーム世界、バーチャル空間で考えられたりしますが、本来のメタバースの在り方、捉え方というのがとても分かりにくいと思っています。いろんな人が多方面から見ていますからね。IT企業側から見ていたり、ゲーム会社側から見ていたり、みんながいろいろな考え方をしているのが現状で、言ってみればカオスなんです。
しかし、MMORPGは少し違います。最大の特徴は目的があるということ。ボスを倒す、世界を救うという目標がゲームの中で設定されています。それと比較して、「メタバースって何するの?」と考えてしまいます。普通に現実のお金を稼ぎたいなら、仮想通貨や株をやればいいですよね。まじめに働いたって、ギャンブルで稼いだっていいと思うんです。
じゃあ、メタバースの世界の中に入って、何をするのでしょう。人によっては出会い系みたいなものを考えるかもしれません。多くの人が求めているメタバースを一番分かりやすくすると映画『サマーウォーズ』のようなバーチャル空間なのでしょうかね。今のカオスな状況を少し交通整理できたら、もう少しまとまるんじゃないかなと思っています。けれど、「そもそも広大な仮想空間をどうやって構築するの?」という話もあります。
――メタバースの定義のような部分はまだ不完全なのかもしれませんが、こうした技術の進歩はまさに日進月歩ですね。
森下 そうですね。サーバーの考え方も大きく変わりましたね。僕らが昔、MMORPGを運営していた頃、国内のデータセンターを何カ所か借りて、自社のサーバーを物理的に置いて、自社でサーバー管理していました。もしサーバーが止まったら、ブレードサーバーという“板”のようなサーバーを丸ごと差し替えていました。
だから、いつ故障してもいいように、データセンターにブレードサーバーのストックを置いておきました。壊れたら修理するんじゃなくて、壊れたサーバーを引き抜いて、新品を差し直すという運営をしていたんですね。
現在はすべてクラウド環境で運営していますから、時代とともに利用する技術やできることも変化していくとするならば、メタバースの使い方も私が考えているような形から変化して、これからの主流になるのかもしれませんね。
ただ、メタバースのような空間をガンホーが提供したいかというと、そうではありません。僕たちはやはりゲーム開発者で、面白いゲームを作りたいということが一番なんです。ユーザーがお金をもうけられますよ、というサービスの構築に興味があるわけじゃないんです。ユーザーがゲームをして面白かった、楽しかったというのが重要なわけです。
ユーザーの皆さんの中に記憶として残るゲームを自分たちが作る、というのが基本的な考え方なので、そこを変えようという気持ちはありません。何がユーザーにとって楽しいのかを考え、ユーザーが感動するような経験を提供するのが仕事だと思っています。
ですので、話題になっているからと、メタバースの開発へ軸をずらす気持ちはありません。そう話していても、未来永劫(えいごう)その可能性が全くゼロというわけではなくて、前述したようにメタバース的な仕組みは僕たちも考えてはきました。社会環境が、いよいよそういう時代になってきたんだなということは考えています。
――22年の目標をお聞かせください。
森下 22年の目標は、斜め上をいくような、みんなが「どうした? ガンホー!」と驚くようなものを作りたいと思っています。3択で企画を机の上に並べて、社内の開発メンバーは絶対これを選ばないだろうな、というイメージの企画ですね。徐々に進んではいますので、なんとか開発にこぎつけたいところです。
『パズドラ』だって、当時を振り返れば時流から外れたというか、かなりトレンドから離れたゲームだったんですよ。それがやはり時代にマッチすることでヒットする。そういうゲームを作りたいですね。当たるか当たらないか分からないというのが難しいんですけど。
それから、今は開発体制の8割がリモートワークになっていますが、開発という仕事を考えるとコミュニケーションがとても大事になってきます。意思疎通がしっかりできますし、早くまたみんなでコミュニケーションをとりながら開発ができるようになりたいですね。
(写真/稲垣純也)
June 17, 2022 at 03:00AM
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