当初はワインやブランデーを製造していた蝶矢 売れない『梅酒』に反発する社員も…
当然社内でも、このまま梅酒を製造していていいのか、他の商品に切り替えた方がいいのではという声も挙がってくる。離れて行った社員もいただろう。しかし、安易に他のものに手を出さなかったことこそ、今日の同社の成功に繋がっている。
「日本独自の文化である梅酒で勝負、そして、その梅酒を世界に広げたい。当たり前にお金を出して買っている味噌や醤油も、かつては家庭で作られていたもの。先人たちは梅酒も必ずそうなる、という信念を貫いたのです」
暗黒の20年…求められた“家庭で作る酒”からの脱却 核家族化と冷蔵庫普及が追い風に
「まず、商品に梅の実を入れました。実は、梅の実入り梅酒の販売は当社が初めてだったのです。また、いかなる食文化の変化や時代の流れを受けても、代々伝わる梅の品質、量、熟成方法に基づいて、最高の梅、沢山の量、光を当てないように温度管理をした状態での熟成にこだわり、香料や着色料に頼らない 、無添加の梅酒作りを行っています」
実は梅は豊作、凶作が激しく、収穫は年一度の6月のみ。沢山収穫できる年もあれば、量が確保できない年もあり、価格変動もある。
「創業者が農家出身という事もあり、農作物への思い、理解、品質や無添加へのこだわり、土づくりも含め、消費者のみならず、生産者さんへの配慮、理解、そういうやり取りの積み重ねによる信頼関係によって、高品質な梅の安定供給を生産者さんのおかげで実現できています」
そして、遂に時代がチョーヤに追い付いてきた…とでも言おうか。1975年頃から都市部への人口が集中し核家族化が進み、梅酒を作る家庭が減ってきた。
「1986年、当初つぼ型だった瓶を冷蔵庫のドアポケットに納まる縦長の瓶に変え、今でも弊社の看板商品の一つでもある『紀州』を発売しました」
形を変え、冷蔵庫のドアポケットへ躍り出た ことで、台所の片隅などの暗い場所で待機していた梅酒が、ほかのお酒や飲み物と並び、食前酒としても広く親しまれ、その後の躍進の大きなきっかけにもなった。
「飲み方アンケートでは、ストレート、ロック、水割りに次いでソーダ割があり、1987年、瓶入り梅酒ソーダ『ウメッシュ』を発売した結果、20代女性や30代から40代の主婦など、若い新規層を獲得しました。翌88年には、更に手軽な缶入りを発売しました」
現在は簡単に買える炭酸水も、当時は多くは販売されておらず、さらなる女性客の獲得につながった。炭酸は梅酒の甘みや酸味ともよく合い、若年層にも広まった。
梅酒が世界のバーカウンターへ… 日本古来の文化を受け継ぐチョーヤの強い使命感
「アジア圏では、元々梅に馴染みがありましたが、欧米では全くなく、梅酒がどういうお酒なのか知ってもらうのに苦労し、広がるまで時間がかかりました。しかしここでも地道な努力を積み重ね、定期的な試飲やプロモーションを行うことで、徐々に欧米でも“日本のリキュール”だという認識を定着させていきました。最初の輸出から21年 、1989年 にようやくドイツに事業所を開設できました」
決してブレない創業者の思いと先見の明、それを受け入れ、信じてついていった社員の力。梅酒が軌道に乗るまでは、ワインや清涼飲料の売上で忍んだ。しかしそのワインは、梅ワインを残して2007年に販売終了している。ついに2000年、「チョーヤ梅酒」と社名を変更し、同社は梅酒一本で世界に勝負していくことを決めたのだ。
2002年からの10年間で市場での梅酒生産量 が約2倍になったが、和歌山の農家の梅酒用の梅の出荷伸び率はわずか8%だった。酸味料をはじめとする添加物の多用などにより、梅酒に梅が十分に使われていないことの動かぬ証拠だった。
「早く、安く、沢山作ろうと思えば、酸味料、着色料、香料で、梅を使わず梅酒風味のお酒ができ、日本以外でも作れる。でも、それは梅酒じゃない。それをやってしまったら世界に勝てない。そんなことをしたら、本当の梅酒をわかってもらえなくなります」
「完熟南高梅や白加賀などの梅5種、砂糖もてんさい糖、アガベシロップなど5種、お酒はホワイトラム、ブランデー、ジン、ウォッカの4種から自由に選べるので、各地の梅の個性を楽しみながらぜひ体験して頂きたいです」(1962年の酒税法改定により、家庭で楽しむ梅酒作りは合法に)
台所の片隅から冷蔵庫のドアポケットへ、そして今では銀座のバーカウンターの上に。今後、日本が世界に誇る梅酒がチョーヤと共にどんな旅を続けて行くのか楽しみだ。
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January 13, 2022 at 06:40AM
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「梅酒が売れるわけがない」“家庭で作る”イメージからの脱却、世界に広めたチョーヤ60年の軌跡 - ORICON NEWS
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