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靴職人・安藤文也 ~ふるさとでつくる靴~ - nhk.or.jp

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すべて手作りで1足の靴を仕上げていく、完全オーダーメイドで靴を作る職人が南相馬市にいます。靴づくりの世界大会で5位に輝いたこともある安藤文也さん(36)。去年10月にふるさと南相馬市にUターンしました。自身の工房を構え、11月から本格的に靴の注文を受け始めました。気鋭の靴職人が、ふるさと南相馬で靴づくりを決意した理由とは。その素顔に迫りました。

手作り専門の靴工房

安藤さんが手がけた靴

つややかな革の色あいが光る、高級感あふれる靴。これらは靴職人・安藤文也さんが手がけたもの。なんと、すべて手作りです。

安藤さんの自宅兼工房

安藤さんの工房は、南相馬市小高区の一軒家を改装した建物にあります。工房を訪ねてみると、早速、作業の一部を見せてもらうことができました。

靴の型紙を作る作業 木型に線を引いて型紙のベースを作る

見せてくれたのは、靴のパーツの形やサイズのひな形となる型紙を作る作業。靴づくりの中でも基本的な工程の1つで、うまくいかなければ何度もやり直すこともある重要なものだといいます。

(安藤さん)
型紙を作るのは、靴づくりの中では肝になる工程ですね。やはり靴の顔が締まらないと靴底をつけたときもバランスが悪かったりするので、慎重に行います。あとはお客様の足の幅や細さなどの足の形で決めていきます。仮縫いをして実際にお客様が履かれると、バランスが違って見えたりしているので、そういう場合はもう一度修正して作り直し、よりよくしていきます。

ベースとなる木型

ここで、靴づくりの流れをざっとおさらいしておきましょう。まずは足の長さや幅などのサイズ、高さを計測して紙に転写し、靴のベースとなる木型を作ります。

木型に革を張り付ける“つり込み”と呼ばれる作業

そしてこの木型に革を沿わせて、足に合っているかを確かめるフィッティング用の仮靴を製作。仮靴で合わせて足にフィットする形が決まったあと、木型から型紙を作って、製品用の靴を作ります。

“だし縫い”の様子

製品用の靴は良質な革の部分を使用し、靴底を“すくい縫い”、“だし縫い”と呼ばれる2種類の伝統的な手縫いの技法で仕立てます。最後に靴を磨いて仕上げをします。お客さんに渡すまでに、注文を受けてからおおよそ4か月から半年かかるといいます。

2.5センチの幅に12~14の縫い目をつけるという

安藤さんのような完全オーダーメイドの靴づくりは、客と対話しながらデザインやタイプ、素材を選びながら作る“ビスポーク”と呼ばれるスタイルです。製法にもよりますが、1足の価格が20万~40万円弱と高額で、客と打ち合わせたり、足に合わせるフィッティングの作業を行う必要があるなど、時間も手間もかかります。

仕上げの磨きも靴を輝かせる重要な工程

しかし、完成した靴は世界に1足しかないオリジナル。そのため満足度も高く、既製品の多い現在でも根強い需要があるといいます。

高額だが、大切に使えば生涯履けるという

南相馬市出身、Uターンした靴職人

幼稚園児のころの安藤さん。もの静かでおとなしい子どもだった
(安藤さん提供)

南相馬市出身の安藤さん。しかし、ずっと地元で靴づくりをしていたわけではありません。絵画が好きだった安藤さんは、高校卒業後に美術を本格的に学びたいと上京。浪人しながら大学などに通って美術を学べる道を模索していましたが、なかなかうまくいかなかったといいます。

28歳のころ。靴づくりを学んでいた当時の仲間たちと(安藤さん提供)

転機となったのが靴づくりの仕事。もともと手先が器用で、ものづくりも好きだったという安藤さん。28歳で靴づくりを学び、30歳のころ都内の会社で本格的に靴職人として働き始めました。年に一度開かれる、靴づくりの技術を競う世界大会でも第5位に輝いたこともあるほど確かな腕を持つ安藤さん。なぜ地元、南相馬市に戻ってきたのでしょうか?

5位に輝いた靴を懐かしそうに眺める安藤さん

(安藤さん)
ここが故郷だったということがまず理由でしたが、こういう注文靴を作る工房が東北ではまだ少ない。知る限りではまだないので、自分がふるさとに戻って、東北でこういう事業ができたら面白いんじゃないか、チャンスもあるんじゃないかなと思って戻ってきました。東京だとなかなか1日の区切りがなくて、ずっと長い1日を過ごしているような感覚もあり、土地柄どうしても密集していて、安らぐ時間が少なかったというのもあったかもしれません。こちらは暮らしにメリハリがありますし、自然豊かで草花や四季の移ろいもあります。都会とはまた違う情報量があって、靴づくりの刺激になっているのもいいですね。

くしくも南相馬市が自分で事業を起こしたい若い世代に向け、補助金を出すなどして移住を促していました。安藤さんは起業型の地域おこし協力隊の一員として、去年10月に地元に舞い戻ったのです。

周りに豊かな自然があるのも、地元に帰ろうと思った理由の1つ

“まったく心配ない” 父の思い

帰郷してからはよくようすを見に来るという父・潤之さん

安藤さんの工房を、たびたび訪れる人がいます。父・潤之さん(66)です。地元に戻った息子が気になり、様子を見に来るといいます。自身も大手メーカーから注文を受け、婦人服を作る会社を経営していたという潤之さん。単身地元に戻って靴づくりをする息子を、どんな思いで見ているのでしょうか。

自身も会社を経営していたという父・潤之さん

(父・潤之さん)
心配はまったくしていないです。大変なことはあるかもしれないですけど、それはそれでいいのかなと思います。会社に所属してやっていくと、しがらみとか人間関係とか出てきますけど、1人で自分がやりたいことをやって、お客さんが実際に息子の靴を履いて、ああ、彼に頼んでよかったなと思ってもらうのが一番かなと。しんどい思いをしたり、お客さんとうまくいかなかったり、いろいろなことが出てくるとは思いますけど、それはそれで自分の糧になりますから。

人を雇っていないとはいえ、自分と同じ経営者としての道に進む息子のことを、“まったく心配ない”と話す潤之さん。安藤さんが幼いころは仕事が忙しく、家にいないことも多かったといいます。そうした中でも、虫とりに連れて行くなど、親子の絆を育んできた2人。この強い絆も、安藤さんが地元で靴づくりを決めた理由の1つなのかもしれません。

潤之さんの話を聞いている時、どこかうれしそうだった

注文の決め手は…“ふるさとに戻って靴づくり”

お客さんが工房に訪問

今月から本格的に注文を受け始めた安藤さん。腕のいい靴職人が南相馬にいる、という評判を聞きつけた人たちから、早くも複数の注文を受けているといいます。その中の1人で、安藤さんの工房を訪れたのが南祐太さん。東京でオーダーシャツを仕立てる工房の代表を務めています。自身も南相馬市で木綿を栽培し、その木綿で作ったシャツを販売しているといいます。なぜ安藤さんに自分の靴を作ってもらいたいと思ったのか、その理由を聞いてみました。

ふるさとで靴づくりに励む安藤さんの姿勢に共感したという南さん

(お客の南さん)
決め手はやはり、ふるさとに戻ってやっているというのが一番でした。どうしても高い靴になるので、変な言い方をすると、東京の一等地みたいなギラギラしているところで見せびらかすように営業されている人も多いんです。そんな中で、ふるさとに戻って自分の靴を深く作っていくというか、そういうところがいいなというか、共感できるというか。それでお願いしました。個人的には無理してないところも、今の時代に合ってるんじゃないかなと思います。無理して作ったものって、それが如実に現れるような気がしていて、この前、靴を見せてもらってそれがないなと感じたのも決め手の1つです。

コードバンと呼ばれる馬の革で靴を作りたいという

南さんは、職人として確かな腕を持ちながら、ふるさとに戻って靴づくりに向き合う安藤さんの考え方、姿勢に共感しているようでした。華やかなアパレル業界で働いているからこそ、飾らず、いい靴を実直に求めていく安藤さんの姿が逆に新鮮に映るのかもしれません。そんな南さんが要望したのは、すべて馬の革を使った靴。「相馬野馬追」など、馬とともに暮らす伝統が根づいたこの地域をイメージしてオーダーしたといいます。職人・安藤文也も、この注文には大いに刺激を受けたようす。

客ごとに異なる要望の靴を作るからこそ、職人としても成長できると安藤さん

(安藤さん)
すべて馬革で作るというのはやったことがなくて、自分にとってはチャレンジです。でも、お客様の要望があって新しいことができるチャンスをいただけるので、私としてはとても自分と向き合う良い機会になると感じています。注文を受けるからには喜んでいただきたいという気持ちがあるので、お客様のおかげで自分のモチベーションが上がります。それがフルオーダーの仕事の醍醐味ということを、再確認しました。

打ち合わせは2時間近く続いた

“文也を見て、周りの人が頑張ろうって思えば” 親友

親友と談笑する安藤さん

ある日、仕事の合間に、小・中学校の同級生と会っていた安藤さん。南相馬市在住で、電気工事の職人として働く三品太さん(36)です。安藤さんの工房も、電気工事は三品さんが手がけたといいます。昔はけんかもしたものの、趣味も合って仲もよかったという2人。安藤さんが南相馬に戻ったことで交流が復活。互いの家を行き来して、食事する機会も多いといいます。ふるさとに戻ってきた安藤さんを、親友の三品さんはどう見ているのでしょうか。

安藤さんの帰郷は自分にとってもうれしいという三品さん

(三品さん)
単純に友達がまた地元に戻ってきて事業を起こしてくれたのがまずうれしいですね。それに今の若い子たちが東京や大都会に出なくても、こういう片田舎でもクールな仕事ができるぜっていうことを文也が体現してくれてますから、自分の地元でこう働こうと努力すればそれができるんだっていうことを見せてくれる。今の若い人たちに夢を与えてくれる存在だと思います。

さらに話は、原発事故の影響を受けた南相馬市の復興の話題に。安藤さんは“自分自身が靴づくりを通じて復興に寄与することは、あまり意識していない”とのことでしたが、三品さんの見方は少し違っていました。

将来は安藤さんに娘の靴を作ってもらいたいという

(三品さん)
やっぱり人がいないと復興もできないし、そういう中で働き盛りの30代、40代がここに来ることで活力になるじゃないですか。今はわずかでも、これからどんどん集まっていけば必ずこの町は元よりもよくなるって僕は信じてます。彼に復興のシンボルになってくれ、なんて思わないです。でも靴職人として頑張る文也を見て、周りの人が頑張ろうって思えば、それがひとつの復興のプロセスなんじゃないかなって思います。

靴職人・安藤文也“人生をともに歩んでいけるような靴を”

1年の準備期間を終え、順調に注文も入っている安藤さん。靴づくりを究める職人として、ふるさと南相馬で自身が目指す靴づくりについて、改めて聞いてみました。

理想の靴づくりについて話す安藤さん

(安藤さん)
靴は歩行の道具であり、工芸品であり、お客様の健康を支えるものでもあります。人が履いて、日常に彩りが出て、豊かになるような、人生を通してともに歩んでいけるような靴を作れたら一番いいなと思ってますし、それを目標に靴を作っています。復興に関してはあまり意識はしていませんが、僕の考えの軸はあくまで靴づくりなので、そこから派生して復興などにも貢献できるよう、地元と良好な関係が築ければ一番いいですね。

取材の余談:職人を支える道具たち

靴づくりには実に多くの道具が必要だ

安藤さんへの取材で興味を引かれたのが、靴の製作に欠かせない道具の数々。靴も大量生産が当たり前になった現代、手作りの靴づくりを支えた道具たちもなくなりつつあるのです。

革を打つためのハンマー 左が日本製、右がイギリス製

そんな中、安藤さんの工房を見渡すと、今では珍しい道具の数々も多数見ることができました。例えば、革を打つハンマー。木型に革をかぶせて形を整える時に使います。安藤さんはふだん6本を愛用。靴の形状や革の状態に合わせて使い分けているといいます。イギリスやフランスなど海外のものもありますが、世界的に数が減っていて、ネット上のオークションサイトに出るとすぐにそうした道具を購入することもあり、手にするためには涙ぐましい努力が必要なのだとか。

靴のアイロンなど
靴の見栄えや強度を高めるため塗布するろうを固めるのに使う

靴の見栄えや、強度を上げたりするため、靴にろうを塗る作業があります。そのための特殊なアイロンも、今は貴重な品で入手困難。安藤さんは20本以上を所持していますが、一部は必要に迫られて自作したものとのこと。腕のいい職人だけでなく、職人の理想を実現する仕事道具があってこそ、美しい靴を生み出せるのだということがよくわかりました。職人・安藤文也と道具たちのアンサンブルから、今後どんな作品が生み出されていくのか、楽しみです。

シューボックスは“まっさらな状態からスタートしたい”と
あえてシンプルなデザインに

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November 15, 2023 at 09:46AM
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