発売から50年以上、半世紀を超えて支持される国産ダイキャストミニカーのスタンダードである『トミカ』と、自動車メディアとして戦前からの長い歴史を持つ『モーターファン』とのコラボレーションでお届けするトミカと実車の連載オールカタログ。あの『トミカ』の実車はどんなクルマ?
2023年5月の第3土曜日に、それまでの『トミカ』の『No.115 スバル WRX S4 STI Sport #』に代わって登場したのが『No.115 ホンダ FU655 ラッキー』です。ラッキーはHonda(以下、ホンダ)が製造・販売する耕うん機で、『トミカ』の中でも異色の存在です。
耕うん機とは、田畑に作物を植え付ける前段階として実施される、土を掘り返したり反転させたりして耕す作業である耕起や砕土などによって土壌を整地する作業、耕耘(こううん)に用いられる農業機械です。従って、耕うん機の「うん」は訓読みで「くさぎる」などと読む、「耘」という漢字を用いますが、これは「田畑の雑草を取り除く」という意味です。一般的には漢字では「耕耘機」と表記しますが、耕うん機はトレーラーを連結して作物などの運搬用にも使用したため、「はこぶ」という意味の「運」を用いて「耕運機」と漢字表記することも誤りではないそうです。ちなみに新聞や雑誌の業界では、「うん」に複数の漢字があてられること、「耘」が常用漢字ではないことなどから、あえて漢字をあてず「耕うん機」と表記しています。
また、耕うん機は英語では「ティラー」と呼びますが、1953(昭和28)年に神奈川県川崎市にあった細王舎がアメリカのメリー ティラー社と技術提携を行なった際、小型では日本初の空冷エンジン搭載の安価な耕うん機を「メリーテーラー」と称して販売、農家の必需品といわれるまでに普及したため、農家などでは「テーラー」と呼ぶのが広まり、一部のメーカーでは商品名として「テーラー」を用いるようになりました。また、小型農業機械メーカーのマメトラ農機製の製品が普及した地域では「マメトラ」などとも呼ばれています。
さて、耕うん機とは、エンジンを載せたフレームに耕うんのための回転刃(ロータリー)を連結し、人が後部からついて歩く形の農業機械で、トラクターよりも小さな耕うん専用機です。かつては耕うんだけでなく、アタッチメントと呼ばれる各種の作業機を交換装着することで、耕うんだけでなく、農場での様々な作業に対応できる耕うん機のことを管理機と呼びましたが、現在では両者の区別はあいまいとなってきており、耕うん機に統一されるケースが多いようです。
日本初の耕うん機は1926(大正15)年に岡山県児島湾干拓地(現・岡山市)の西崎浩という人が作ったと言われています。しかし畑地はともかく重く粘り気の強い土質の水田ではとても使い物にならず、試作品の域を出なかったため、結局、1931(昭和6)年(一説には1932年)に同じ岡山県の藤井康弘氏の藤井康弘商店(現・株式会社富士およびヤンマー)で作られたロータリー式耕運機『丈夫(ますらお)号』が日本初の実用機とされています。日本において本格的に普及が進んだのは第二次世界大戦後のことで、普及に伴いエンジンやロータリーの構造の改良によって、現代では当初より相当小型で高性能を有するようになっています。
さて、耕うん機の構造ですが、一般的には二輪駆動で移動する本体の後部に補助車輪と呼ばれる小さな車輪を備えています。本体は変速機構を備えており、耕うんだけでなく荷物の運搬といったトレーラー作業にも対応可能になっています。この本体の前方あるいは後方に連結された、複数のなた状の刃が高速で回転するロータリー装置によって田畑の表土を耕す仕組みです。
このロータリー装置が車輪も兼ねている方式のものを「車軸ローター式」、本体の前方に装着しているものを「フロントロータリー式」、後方に装着しているものを「リヤロータリー方式」と呼びます。車軸ロータリー式はコンパクトで取り回ししやすいのが特徴で、趣味の家庭菜園などで使用される小型機によく用いられる方式です。フロントロータリー式は足元を気にせず隅々までしっかり耕うんすることが出来るため、比較的楽に耕うん作業が出来ることが特徴です。リヤロータリー式は直進性に優れており、パワフルに土を細かく砕けるため、本格的な仕上がりとなるのが特徴です。それぞれに特徴がありますが、一般的にプロ農家ではリヤロータリー式かフロントロータリー式が用いられるようです。もっとも現代の大規模なプロ農家では、耕うん機よりもトラクターを使用することが多くなっており、趣味で農業を行なっている人たちがリヤロータリー式の比較的大型の耕うん機を使用するケースも増えてきているそうです。
さて、ホンダの耕うん機は『ピアンタ』や『プチな』、『こまめ』シリーズ、『パンチ』といった小さな車軸ローター式のものに始まり、フロントロータリー式の『サ・ラ・ダ』シリーズ、リヤローター式の『ラッキー』シリーズがあります。このリヤローター式の『ラッキー』シリーズはホンダ独自の耕うん機構“同軸・同時正逆転ロータリー”を搭載し、簡単な操作で硬い土でもスムーズにしっかりときれいに耕すことができることから、1993年の発売以来、初心者からプロ農家まで、高い支持を得ているガソリンエンジンの耕うん機です。今回、『トミカ』でモデル化されたのは、2008年に登場したFU655というモデルになります。
FU655は連続定格出力2.9㎾(3.9㎰)で、ひとまわり強力な連続定格出力3.7㎾(5.0㎰)のFU755と一緒にデビューしました(全国の特約ホームセンターから発売される、ホームセンター向けモデルのFU655LH/FU755LHもあり)。従来モデルから好評だった耕うん性能はそのままに、握ると動き、放すと停止する新形状のクラッチレバーが採用されてハンドルを握ったままクラッチ操作が行なえる新形状のループハンドルの採用などにより、発進、作業、旋回時の操作性が高められています。
また、耕うん時の車速を最適に設定することにより、作業時の直進性が高められました。さらに作業時の安定した直進性と軽快な旋回を両立したデフロック機構も採用されています。この優れた操作性や作業性能に加え、駐車ブレーキの標準装備や新設計のリヤマッドガードの採用などにより、生研センター(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構「生物系特定産業技術研究支援センター」)が定める安全鑑定を取得しています。
独自の耕うん機構である“同軸・同時正逆転ロータリー”は、内側の爪(刃)が正転(前方向への回転)耕うんを、外側の爪が逆転耕うんを行なうことにより、爪の食い込みに優れ、機体が跳ねにくく、耕うん振動も少ないため、作業者が疲れにくくなっています。また、内側の爪が前方向へ回転することにより、チェーンケース前に土溜まりをつくることなく、スムーズに前進できると同時に土の抱き込みも少なく、美しい仕上がりを実現します。加えて畝立て、培土、除草など、畑作業に必要な各種作業機(別売アタッチメント)が用意されており、これらを交換装着することで多様な用途に対応しています。
エンジンは単気筒 空冷OHV 4ストローク汎用エンジンの“Honda GX” で、耐久性に優れ、₍社)日本陸用内燃機関協会自主規制値と米国環境保護局(EPA)フェーズ2規制値をクリアする優れた環境性能を誇っています。
この家庭菜園からプロ農家にまで幅広く柔軟に対応できる耕うん機の『トミカ』は、間違いなくシリーズの中でも一、二を争う異色モデルですが、特徴的なループハンドルの形状などがうまく再現されています。畑をイメージした台座と作業者の人形もセットされ、手軽に日本の田園風景を再現することができますので、ちょっとしたインテリアにも良さそうです。透明の台座や作業者を模型用塗料などで塗装してみると、さらに雰囲気が高まることでしょう。
■ホンダ リヤロータリー式耕うん機 ラッキー FU655 主要諸元
全長×全幅×全高(mm):`1480×570×1025
機体質量(全装備重量)(kg):93
エンジン:GX160K1型 空冷4ストローク単気筒OHV
総排気量(cc):163
連続定格出力(kW[ps]/rpm):2.9[3.9]/3600
使用燃料:自動車用無鉛ガソリン
燃料タンク容量(ℓ):2.4
点火方式:トランジスタ式マグネト点火
始動方式:リコイルスターター(手動)
主クラッチ形式:ベルトテンション
操向クラッチ形式:デフ
ブレーキ形式:内部拡張(駐車ブレーキ)
走行変速段数(段):前進2(耕うん1)、後進1
走行速度(m/s):前進0.29~1.16、後進0.36
ロータリー駆動方式:センタードライブ
耕幅(mm):510
爪径(mm):326
ロータリー回転数(rpm):243
安全鑑定番号:32122
■毎月第3土曜日はトミカの日!
毎月第3土曜日は新しいトミカの発売日です。2023年5月の第3土曜日には、上でお伝えしているように、それまでの『No.115 スバル WRX S4 STI Sport #』に代わって『No.115 ホンダ FU655 ラッキー』が登場します。また、それまでの『No.64 日産 アリア』に代わって『No.64 トヨタ ヴォクシー』が登場します。なお、『No.64 トヨタ ヴォクシー』には、初回出荷のみの特別仕様(特別色)もあります。
May 20, 2023 at 08:30AM
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ホンダが作る農業マシンのヒット作もラインアップ‼ トミカ × リアルカー オールカタログ / No.115 ホンダ FU655 ラッキー - MotorFan[モーターファン]
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