元「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」の高橋悠介が、2020年2月に立ち上げた「CFCL」は、ブランドストーリーだけでなく、会社の在り方から世界基準の透明性に挑んでいる。その取り組みの一環として、「Bコーポレーション(B Corporation、B corp)」に申請中。事業利益だけでなく、環境や社会に配慮した公益を重んじる企業に与えられる米国の厳しい民間認証で、日本のアパレル企業初の承認取得を目指す。11月に引っ越したばかりのアトリエには、トワルも、裁断机も、ミシンもない。3Dコンピューター・ニッティングを核に、“時代に左右されない衣服”の提供を目指す。高橋が考える、今求められる服とは。企業価値とは。
WWD:ブランドをスタートしてから、どんな1年だったか?
高橋悠介 CEO兼クリエイティブ・ディレクター(以下、高橋):新型コロナウイルスの流行拡大のタイミングで起業したため、周囲には「大変だったね」と声を掛けられる。しかし、1年間は売上が立たない見込みで事業計画書を作り、資金調達をしていたので、大きな影響はなかった。オフィスを借りたのは11月、社員が増えたのが12月で、やっと会社らしくなってきた。現在は、就業規則を作成中だが、働き方もゼロから作れる。従来のルールに縛られずに変えていきたい。
WWD:就業規則も、「Bコープ」の規定に沿っている?
高橋:働き方に関する項目を参考にしている。もう1つ、昨年フィンランドの首相が、1日6時間労働・週休3日制の指針を出していて、自社でもそれに近づけようと考えている。さすがに週休3日は厳しいが、ブルシット ジョブを徹底的に排除した結果、社員の残業は展示会前の時期に少しだけ。そもそもフレックス制を導入しているので、残業という概念はなく、1日10時間働く日があれば、5時間の日もある。リモートワークで通勤時間は省けるし、デザイン画や指示書も、すべてオンラインで共有できる。急に1日6時間制を導入するのは難しいので段階的に短縮し、2030年までの実現を目指したい。
“コレクションのためだけに作る服は誰も買わない”
WWD:高橋さんが考える、ブルシット ジョブとは?高橋:1番の無駄は、コレクションのためだけに作る服。「本当にやる必要があるか?」を突き詰めていくと、やるべきことは意外に少ない。その分、構想の時間を増やして、物事と向き合う時間を大切にしたい。
WWD:元コレクションブランドのデザイナーから、その言葉を聞くのは衝撃だ。
高橋:時代が変わった。僕が学生だったときは、アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)やジョン・ガリアーノ(John Galliano)、フセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)が現役で、エンターテインメントとしてのショーが求められていた。当時はショー自体に価値があったが、人間の感覚や生活様式が急激に変わらないのに、半年に1度のコレクション発表は難しい。ファッションショーを否定しているのではなく、ファッションにおける、“新しいモノ”の価値観が変化している。AIや5G、LOT、社会の女性進出など、新しい技術や価値観が浸透していくにつれて、服のスタイルが変わるのは間違いない。でも、それが見た目で分かるモノとも限らない。
WWD:ブランドに対する周囲からの反応や、ビジネスの推移は想定内?
高橋:サステナビリティに関する質問や取り上げられ方は、想像以上だった。ただ、それを会社の売り文句にしていないので、雑誌社や新聞社の方には「“サステナブランド”にせずに、他の質問もきちんとしてほしい」と伝えている。ビジネスに関しては、消化率は非常に良い。もともとメンズのデザイナーだったので、ウィメンズのバイヤーの方々から良い反応があり、ほっとしている。また、2月1日にスタートしたオンラインストアの越境ECの売上は、想像以上。海外出荷は13カ国で、すでにリピーターがいることに驚いている。
WWD:卸売りの日本と海外の割合は?
高橋:売り上げは国内の割合が大きいが、卸売先の半分以上を海外クライアントが占める。コンサルティング・エージェンシーのセイヤ ナカムラ2.24(SEIYA NAKAMURA 2.24 )が卸のセールスを担っているが、パリでの売り込みがないなかで、この数字が付くのは今の時代ならでは。一部の卸先には、郵送で実物の生地や色味を見てもらったが、それでも数百万円単位で買い付けてくれるのは、すごいことだ。
小学生の頃の夢は建築家。中学生でファッションに目覚める
WWD:そもそもファッション業界を目指したきかっけは?
高橋:祖父が建築家だった影響で、小学生の頃は建築家を目指していたが、中学生の頃に、ファッションに目覚めた。雑誌ブームの全盛期で、スタイリストの祐真朋樹さんや、野口強さんが好きだった。革靴ブームもあって、「ジョンロブ(JOHN LOBB)」などにも興味があった。一方で、インテリアが好きで、吉岡徳人さんのハニーポップチェアに感動した。イギリス留学中は、「チャラヤン」や「アレキサンダー・マックイーン」に就職したいと意気込んでいたが、“海外留学あるある”で、逆に日本の良さにも気付かされた。
WWD:モノ作りは幼い頃から好きだった?
高橋:病院で診断されたわけではないが、僕はディスレクシアという失読症で、幼い頃から文字の読み書きや勉強がとにかく苦手だった。でも図工だけは、他の子よりも圧倒的に出来ている自覚が、5歳くらいからあった。父は医者と弁護士として働いていて、そのことに早く気付いてくれたことも大きい。世間的には「医者の息子は、医者を継ぐ」みたいな風潮があるが、意志を尊重してくれて、いつかモノ作りをしたいとずっと思っていた。
WWD:「CFCL」のコンセプトは「時代が求める服」。今、人が服に求めるコトとは?高橋:より本質に近づいている。ファッションだけでなく、生き方の価値観が変わりつつある。ダイバーシティという言葉が浸透し、「他人と一緒」が不自然であることにも気づきはじめている。そうなるとトレンドもない。ファッションは、ある意味見せびらかしで、帰属意識から生まれる気持ち良さや、生き方の意思表示だったりしたが、SNSの登場で、ライフスタイル全体で、それを表明する時代になった。もう“服が気張る”必要はないが、生き方をサポートしてくれるモノであることに変わりはない。ファッションは、煌びやかで身近なので、憧れの対象になりがちだが、「所詮は服である」ことを認識しなければならない。
WWD:ブランドが伝えるメッセージが、服を通してだけではなくなっている?
高橋:ウェアラブルなモノ全般を通して、どういう生き方を推奨するかを発信するのが「CFCL」。例えば、お客さまに水を出すときに、ペットボトルでいいのか。商品は、過剰包装になっていないか。すべてがブランドのステートメントやフィロソフィーの一部になる。
“東京を、日本のモノ作りのシリコンバレーに”
WWD:今後10年、どんな役割を担っていきたい?
高橋:アパレルに限らず、日本のモノ作りが、世界で戦っていけるようにネットワークを作って発信していきたい。起業するきっかけの1つが、同世代で活躍している人が多かったことだ。シリコンバレーに、スタートアップ企業が集中しているのは、「新しいモノを作ってやろう」という人たちが集まること自体が、プラスに作用しているから。東京でもそれは出来るし、人が何かを欲しいと思ったり、感動したりするのは、業種が違っても同じ。
WWD:今後の目標は?
高橋:まずは「CFCL」の世界観を多くの人に知ってもらいたい。次のシーズンは、ニットだけでなく、ウォッシャブルウールと再生ポリエステルをミックスしたアイテムなども登場する。これからの時代は、どういう会社が何を作っているかが重要。良いモノを作っている裏で、残業を強いられていたり、安い賃金で作られていたりするモノは、気持ち悪くて着ることができない。すべての面で、服に対する透明性をさらに突き詰めていく。
【推薦理由】
高橋CEOは、世界的ブランドのデザイナーというキャリアを早々に切り上げ、ファッション業界が抱える問題に真っ向から立ち向かっている。“サステナビリティを売りにしたくない”と自身が言う通り、サステナビリティやSDGsを当たり前のように捉える姿勢は、同世代の経営者やデザイナーにもいい刺激を与えているはずだ。実際に彼の周りには“新しいものを作ってやろう”と気概のある連中も集まっている。近い将来、日本のファッション業界をけん引する存在になることを期待する。
April 05, 2021 at 10:02AM
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