日本政府が、スマートフォン用OSの寡占状態を懸念している。そこから、「日本政府が独自OSを欲している」との解釈も広がっている。
結論からいうとその解釈は正しくない。報告書にそんなことは書かれていないし、狙いも別のところだ。
そもそも「スマホ用独自OS開発」は意味があることなのだろうか? 政府も考えている「別のこと」とはどういう部分なのか。
少しその点を考えてみよう。
「スマホ以降」に出てきた第三のOSを振り返る
現状のスマートフォン市場において、OSをアップル(iOS)とAndroid(Google)が寡占していることは間違いない。
では、携帯電話・スマートフォン用OSは、これまで「2社以外」は作ってこなかったのだろうか? もちろん違う。
そこでまず思い出されるのは「第三のモバイルOS」騒動だ。2011年から2013年にかけて、サムスン主導の「Tizen」や、Mozillaが主導する「Firefox OS(Boot to Geckoプロジェクト)」などが、アップルとGoogleに対抗する「第三のモバイルOS」として注目された。だが、現在はどちらもスマホ用としては使われていない。
マイクロソフトも「Windows Mobile」「Windows Phone」と2種類のモバイルOSでスマートフォン市場に入っていこうとしたが、結局うまくいかなかった。現在、マイクロソフトは「Surfaceシリーズ」の1つとして、二画面型のスマホ「Surface Duo2」を発売しているが、こちらのOSはAndroidである。
これらのOSを使った製品は、結局のところ広範な消費者の支持を得ることができず、製品展開が途絶えていった。
消費者の支持を得られなかった理由は主に3つある。
1つ目は、アプリやサービスの魅力が薄かったことだ。スマホとは、自分で必要なアプリ・サービスを追加して「自分のもの」として使うものだ。仮に大半の人は同じ定番アプリを追加しているとしても、全員が同じ、ということはない。フィーチャーフォンの時代ならともかく、「選べない」ことを厭うのは当然だ。
2つ目は、ハードウェアのバリエーションが少なかったことだ。アップルが1社で支持を得られているのは、コンシューマー商品として見るとかなり異例なことだ。通常は、同じジャンルに複数の企業が参入し、そのことによって、機能や価格、デザインなどのバリエーションが生まれて「選べる」。出たばかりのプラットフォームが、すでに広がっているものと戦うのは大変だ。
そして3つ目は、上記2つの結果として「特別なもの」と消費者に認識されてしまうことだ。「特別でまだ難しそう」と感じられるものに消費者はなかなか手を出さない。スマートフォンそのものの普及にも数年かかっているわけで、強いプラットフォームから遅れて新しいものがきても、よほど中身が優れていないと選んではもらえない。同じことができる、ではダメなのだ。そして現実問題として、第三のモバイルOSはどれも「同じことがなんとかできる」であり、圧倒的に他より優れていたわけではなかった。
国際的バリューチェーンに乗れなければ競争力は生まれない
これらの問題点は、全て1つの事象に集約できる。
それは「国際的な開発効率」だ。
特にスマホ以降は、アプリストアがあり、そこに合わせて開発してビジネスが回ることが重要なことだった。ビジネスパイと開発ノウハウの両方が存在していないと、アプリやサービスは増えていかない。
ハードウェアも同様だ。スマホを作るには、SoCメーカーが部品を提供するだけでなく、それを使ってスマホを作るために必要なソフトウェアもいる。SoCメーカーや部品メーカーは、スマホを開発するために必要な開発情報を提供しているわけだが、その主軸は当然Androidになっている。
新しいOSを作っても、パーツメーカーが必要な開発情報とソフトウェア・スタックを用意し、製造に必要なサプライチェーンがつながらないと、なかなか増えていかないのだ。1モデルや2モデル用意することはできても、その先は「ビジネス次第」である。
仮に日本が独自OSを作ったとして、それは国際的なバリューチェーンの中に入れるだろうか? 仮に日本メーカーに十分な技術があったとしても、開発効率や低コスト化の面で、国際的バリューチェーンの出来上がったプラットフォームに対して不利なのは否めず、よほど特別な条件がない限り、消費者の支持を得るのは難しいだろう。特殊な条件とは「他よりも圧倒的に魅力がある」ということ。それができるならやる意味はあるが、政府からの要請でできるような性質のものではない。
中国では、ファーウェイが米中摩擦の煽りを受ける形でAndroidをそのまま使えなくなり、「HarmonyOS」を開発して使っている。だがこれだって、中国以外の国ではあまり受け入れられておらず、同社のスマートフォンビジネスに大きな影響があった。販売できる国が減るだけで、製品には極めて大きな影響が出る。
「独自OS」の「独自」はどこまでを指す?
もう1つ、ここで重要な点を考えてみたい。「独自OS」とは何のことを指すのだろうか?
前述したファーウェイ「HarmonyOS」の中でもスマートフォン版については、OSの多くの部分がAndroidと共通である。オープンソースである部分はほとんどそのままで、その上にあってGoogleが提供している「Google Mobile Service(GMS)」の部分がなく、独自実装になっている。理由は、GMSの部分が規制に引っ掛かるからだ。だから、Google PlayやGoogle MapのようなGoogleがサービスを提供する部分や、そこにひもづくソフトウェアは利用していない。
Amazonが「Fireタブレット」に使っている「Fire OS」もそうだ。ベースはAndroidなので多くのAndroidアプリが動作するが、あくまでAmazonの製品として作られており、標準ではGoogle Playが搭載されていない。
これらは、OSのコアとなる部分はAndroidとほぼ同じなのに、アプリケーション販売のエコシステムやUIの一部、構成するコンポーネントの一部が違うから「別のOS」ということになっている。
本当に問題視しているのは「エコシステムの硬直」
とはいえ、これらの議論はあまり意味がない。冒頭で述べたように、政府は確かに「スマートフォンOSの寡占」を気にしているものの、日本での独自OSを作ろう、などとは言っていないからである。GMSのないFire OSやHermonyOSが「Androidとは別のもの」とされているように、重要なのはOSのコア以上に「エコシステム」の方だ。
4月26日、内閣官房デジタル市場競争会議は、「モバイル・エコシステムに関する競争評価」の中間報告書を公開した。
この中では「2つのスマートフォン向けOSが寡占環境にある」としつつも、その結果として生まれる国際間での開発優位性は否定していない。
問題は、そのOSの上に出来上がる「モバイルエコシステム」の上では、プラットフォーマーの意向によって公正なビジネスが阻害されるのではないか、という懸念だ。OSプラットフォーマーによって特定のビジネス領域が固定され、新規参入や競争によるコスト低下が起きないこと、消費者が特定のシステムにロックインされて移行が難しくなること、などが懸念されている。
そうした課題は他国でも指摘されているが、日本も「諸外国の動きに留意しながら検討を行っていく(報告書より抜粋)」としている。ただし、問題になりそうな事象が起きてからでは影響が拡大して産業側の対応が難しくなるため、「事前規制による対応」が念頭に置かれている点に留意したい。事前規制については、プラットフォーマー側からのより強い反発も予想される。
同様の観点は、音声アシスタントを中心とした製品や、スマートウォッチなどのウェアラブル機器でも問題視されている。これらはスマートフォンとひもづく部分が多く、同じような懸念が示された形だ。
報告書内には、具体的にどの部分をどう規制する、といった各論は盛り込まれておらず、課題意識としては至極もっともな内容かと思う。いきなり「日本独自のスマホOSを」といった、産業構造を無視した内容が出てきているわけではないのだ。なので、「日本独自」という話をこれ以上危惧する必要はないだろう。
ただ各論の部分については、セキュリティや広告ビジネスなど、細かな要因との調整が必須だ。実効性の部分についても、プラットフォーマーがその判断を飲めるのかどうか、国際的な枠組みで考える必要が出てくる。むしろ重要なのは、この先の「各論」になってくる。
関連記事
関連リンク
April 28, 2022 at 07:00AM
https://ift.tt/WLnC180
「スマホOSの寡占」問題 政府の思惑は「日本独自OS」を作ることではない - ITmedia NEWS
https://ift.tt/6akzD2W
Mesir News Info
Israel News info
Taiwan News Info
Vietnam News and Info
Japan News and Info Update
Bagikan Berita Ini
0 Response to "「スマホOSの寡占」問題 政府の思惑は「日本独自OS」を作ることではない - ITmedia NEWS"
Post a Comment