個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向け、デジタル教材や学習支援ソフトの活用について検討している中教審の「教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ(WG)」は1月30日、第7回会合をオンラインで開き、これまでの意見をまとめた審議経過報告案について議論した。今後の議論に向けた申し送り事項についても意見交換が行われ、委員からは「最終的には教科書検定にメスを入れないと、個別最適な学びは実現できない」「一人一人の子供に最適な教材を、いかに教師がコーディネートして選択させ、子供の学びを充実させていくかという観点が非常に重要」「日本は国や教科書会社、教材会社が中央で教科書や教材を作って地方に供給してきた。こうした考えを変えた方がいい。最終的には子供一人一人が自分の学びを作る自立した学習者にならなければいけない」といった指摘があった。
教科書・教材・ソフトウェアの在り方WGは、次の学習指導要領の改訂をにらんだ中教審「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」の下に置かれたWGの一つ。2022年10月、24年度のデジタル教科書の本格導入にあたり、小学5年生~中学3年生の「英語」から優先的に導入することを打ち出した中間報告を行った。その後、デジタル教材と学習支援ソフトの活用について審議し、最終回となる今回の会合で審議経過報告案をまとめた。
審議経過報告案では、デジタル教科書とデジタル教材や学習支援ソフトの関係について、「デジタル教科書自体はシンプルで軽いものとし、デジタルの強みを活かして他のさまざまな教材やソフトウェアと効果的に組み合わせ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図る」と整理。その上で、デジタル教材と学習支援ソフトを「自立した学習者として児童生徒が自ら学びをデザインし、互いに学びを深めていくためのツール」と位置付け、活用を促進する環境を整備する必要を確認した。
活用促進に向けて必要な方向性としては、▽機能の充実と活用の在り方として「主体的・対話的で深い学びに向けた授業改善につなげることが必要」▽多様な提供の在り方として「学校・自治体単位での選定の在り方や、児童生徒に応じた教材を選択できる提供の在り方についての検討が必要」▽デジタル教材などの連携の在り方として「学習指導要領コードや学習eポータル等のLMS(学習管理システム)の機能を通じた多様な連携の形が必要」--と整理した。
委員による意見の表明後、最終的な審議経過報告の取りまとめは、堀田龍也主査(東北大大学院教授)に一任された。近く上位会議の特別部会に報告される。
この日の会合では、デジタル教科書、デジタル教材、学習支援ソフトを巡り、今後の議論に向けた申し送り事項も議題となり、さまざまな意見が交わされた。
平川理恵委員(広島県教育長)は「教科書、教材、学習支援ソフトは分けられないと考えている。最終的には何らかの形で教科書検定にメスを入れなければいけないんじゃないか」と切り出した。
「日本の教科書は他国に比べて非常に薄い。その教科書をこなしたら、なんとなく責任を果たした感じになっているが、それでは個別最適な学びは実現できない。教科書のいまの3倍くらいに増やして、先生と生徒が必要と思えるようなところをどんどん学ぶ。先進国ではこういうやり方をやっている。個人も組織も過去を否定することは不得意であるけれども、時間という価値観の変化には人為の及ばざるものがあって、政策をがらりと変える勇気を持つことが必要だ。時の流れに謙虚になって、教科書の考え方も国が思い切って変えていかざるを得ないと思う」と続けた。
この発言を受け、堀田主査は「GIGA端末が来て、学習指導の前提となる基盤が大きく変わった。それを前提として、『令和の日本型学校教育』がいろいろ議論され、理想だった個別最適な学びが現実に動き始めている。義務教育に限らず、学校教育の変わり目がいま大きくやってきている中で、教科書や教材だけが今まで通りのやり方を踏襲できるはずもない」と肯定的にコメントした。
執行純子委員(東京都大田区立入新井第一小学校長)は「児童生徒が膨大な情報と直接向き合うことが可能になると、良い意味で言えば、児童生徒が自分に合った教材とか自分の興味関心があるところにどんどん進めていくことができる。一方、公立小学校の教員でもあった立場で言うと、児童生徒が自分に合った教材を自らが選択できるようにしていくためにはどうしたらいいのか、と考えてしまう。いわゆる学習支援ソフトも含めて、デジタル教材にはとても可能性があり、子供たちに多様な教材が広がっていくところがありがたいが、その一方で、一人一人の子供に合った本当に最適な教材をいかに教師がコーディネートして選択させ、子供の学びを充実させていくか。このところは非常に重要な観点と思っている」と、学校現場からの留意事項を指摘した。
中村めぐみ委員(茨城県つくば市教育委員会指導主事)「児童生徒が自分で学びたい教材を選んでいくように変わってくる中では、子供たちが選びたい教材をどういうふうに選んで提供していくかが、これから自治体の課題になってくる」と述べ、個別最適な学びを促進するために学校設置者である基礎自治体による教材選択が重要になってくるとの見方を示した。
こうした指摘について、堀田主査は「きれいに言えば、多様な教材を多様な学びの観点から多様な選択方法で用意する、ということになるが、実際には、誰がそこに責任を持つのか、どこが負担するのかという現実的な問題が降りかかってくる、という話だ」と述べ、今後の検討事項として重要との認識を示した。
クラウドを活用した主体的な学びに取り組んでいる水谷年孝委員(愛知県春日井市立高森台中学校長)は「端末をクラウドで使えば使うほど、子供たちの学びがどんどん個別の方に向かっている。特に探究学習を始めると、それぞれの子供たちが必要なコンテンツはずいぶん変わっていく。いま、個人ベースで何を選択するかという入り口まできている。そうすると、『自分はここから先を調べたいのだけど、これが使えない』となると、そこで学びが止まってしまう。(ソフトウェアの)サブスクリプションを自治体単位で契約するなど、とこまでも使えるものがないと、この先の学びが進んでいかない状況がある」と説明した。
個別最適な学びに取り組んできた奈須正裕主査代理(上智大教授)は「教科書はティーチャープルーフ・カリキュラムだという言い方がある。ウォータープルーフで防水なので、ティーチャープルーフは悪い教師に影響を受けない、という意味。それによって、質の保証が保たれている一方、教師の自立性とか創造性を減殺することが問題になる。そう考えると、教科書はリソースブックであるべきで、全部使わなくてもいい。こうした教科書の意味付けは、カリキュラムをどう考えるか、現場の先生の専門性をどう考えるか、ということとの関係性でみるといい。これに圧倒的に影響を及ぼしたのがデジタル化だと思う」と、多岐にわたる議論を整理する視座を提供した。
「これまで教師が準備した教材の枠内で子供は学んでいた。でも、1人1台端末によって、子供は自分に必要な情報資料を自分で探し出すことができるようになった。もちろん、その中には怪しいものもあるので、一定のガードレールが必要になる。でも、何が信じられるもので、何が信じられないものかを判別できるようになる能力も必要。その意味で、情報活用能力を育成する。教師の計画的な指導の下で、いろいろな経験をさせてみるのがいい。それを全部排除すると、かえって子供にそういう能力が育たず、先々困ることになる」
「そう考えると、これまで日本は、国、教科書会社、教材会社といった中央で教科書や教材を作り、それを地方に供給してきた。まさにティーチャープルーフな形で運用されてきた。これによって、1億人を超える日本でこれだけの平等で公正な教育が比較的安価に実施できたという良さはある。けれども、こうした考え方は、そろそろ変えた方がいい。もっと学校や教師が学びを作る。最終的には子供1人1人が自分の学びを作る。中教審は答申で『自立した学習者』としているが、そういう話でなければいけない。いろいろなものはガイドラインや条件整備にとどめるのがいい。このあたりが、教科書、教材、学習支援ソフトの性格付けや意味付けになってくる。これらは学校現場での実践を積み重ねながら進めることになる」と続けた。
最後に堀田主査が3つのポイントを指摘した。第1に「いま教育は大きな変わり目にある」こと。「GIGAスクール構想で端末が整備され、コロナを経験し、端末の恒常的な維持 が課題になっている。紙とデジタルの教科書をどうするか。学習進行を教師が把握することで、教師が楽になりながら指導を高度化することもできる。そのためにはデータ連携が必要で、データ連携のためにはデータを標準化しなければならない。個人情報やネットワーク環境が弱いという話もあり、国だけでなく、自治体の動きが重要になっている。これらは全て、子供たちから見れば、一人一人の個別最適な学び、協働的な学びを実現していくための学習基盤の整備になる。だから、もう少しトータルに考えて、マイルストーンを持って進めていくことが必要になる」。
第2は教科書や教材、学習支援ソフトの採択について。「教材が多様化し、学びも多様化することを考えると、あらゆる方法が同時進行で起きる。ただ、私たちはその実態を十分に把握できていない。さまざまな現場でどのように利用されているかをうまく把握できる方法が必要。ログに関係することもあるかと思うが、それらを把握しながらやらないといけない」。
第3には、子供たちの情報活用能力を巡る教育課程が十分に整備されていないことを挙げた。「子供たち一人一人が個別にさまざまな学習リソースに当たり、自己調整しながら学ぶためには、子供たちにとって情報活用能力が必要になる。情報活用能力の育成は、学習指導要領にも学習の基盤となる資質能力として明記されているが、教育課程にはまだ十分に保障されてない。各学校に任されている部分になっている。どういうふうな授業のやり方で、何年生だとどの程度まで情報活用能力を身に付けさせていくのか、徹底的に議論されないといけない。情報活用能力が足りなくて、自民の学習がうまく進行できないことも起こりうる。学習基盤と教育課程の問題をこれから議論していく必要がある」と指摘した。
January 30, 2023 at 06:25PM
https://ift.tt/4vTs5Hk
教科書・教材「中央が作る仕組みの転換を」 中教審WG - 教育新聞
https://ift.tt/c67T3s5
Mesir News Info
Israel News info
Taiwan News Info
Vietnam News and Info
Japan News and Info Update
Bagikan Berita Ini
0 Response to "教科書・教材「中央が作る仕組みの転換を」 中教審WG - 教育新聞"
Post a Comment